Michelin
ミシュラン「タイヤのイラスト劇場」
このページでは、タイヤメーカー、ミシュランの演劇雑誌 L'illustration théâtrale の裏表紙に 1911 年頃に連載されていた « théâtre illustré du pneu » (タイヤのイラスト劇場)シリーズの中から、タイトルに諺がつけられたものを取り上げます。
空気入りのタイヤが発明されて、まだ間もない頃(さらには自動車が普及して間もない頃)の話です。
- ミシュランはレストランを星の数で格付けしたガイドブックで有名ですが、1910~1920頃には演劇関係の雑誌も出しており、この L'illustration théâtrale 誌は、のちに La Petite illustration Roman - théâtre ついで Petite illustration théâtrale と名称変更されていきます。
このミシュランの雑誌では、諺の解釈に「ひねり」が加えられており、なかなか洒落た使い方がされています。
- ただし、まだ本ホームページで取り上げていなかった諺があります。いずれ取り上げる予定です。
A l'impossible nul n'est tenu.
誰も不可能なことをする義務はない
(この諺は本文ではまだ取り上げていません)
中央あたりに、ある侯爵夫人のお抱えの運転手がミシュラン社に宛てた葉書の写真が添えられており、手書きで次のように書かれています。
- ○○○侯爵夫人は、単なる鉄の塊(かたまり)によってタイヤが簡単にパンクしたことで大変お怒りになっており、修理してもらうようにお望みになっておられますので、よろしくお願いいたします。 運転手ジュール○○○
葉書の左上には、その「単なる鉄の塊」の写真が原寸大で載せられており、ミシュランによるコメントとして、赤い小さな字で「こんな鉄の塊にタイヤが耐えられるわけがない」といった内容のことが書かれています。
「いくらお客様とはいえ、そう無茶苦茶なことを言われても困ります。諺にも言うように『誰も不可能なことをする義務はない』のですから」、というわけです。
Entre l'arbre et l'écorce il ne faut pas mettre le doigt.
木と樹皮の間に指を入れてはならない
(この諺は本文ではまだ取り上げていません)
「内輪もめ(夫婦喧嘩など)に口を出してはならない」という意味の諺です。
ただし、諺の意味とは関係なく、次のイラストでは Entre l'arbre et l'écorce (木と樹皮の間に)という表現だけが借用されています。
このイラストでは、小さな字でタイヤのチューブの取り付け方が書かれています(チューブ入りのタイヤは、現代では自動車では使われず、主に自転車などで使われています)。
右下の小さな図は、手でタイヤを押さえながら、リム(受け皿となる金属部分)に押し込んでいる図です。
このとき、チューブ(この小さな図ではタイヤの内側に接した黒い線で描かれている)を、ドライバーのようなものを使って、タイヤとリムの間に挟み込むように指示されています。
つまり、
- Entre l'enveloppe et la jante il faut mettre la chambre à air.
タイヤとリムの間にチューブを入れる必要がある。
「enveloppe」は「タイヤ」、「jante」は「リム」、「chambre à air」は「チューブ」。
というわけです。
この「Entre l'enveloppe et la jante」(タイヤとリムの間に)の部分を、諺にある「Entre l'arbre et l'écorce」(木と樹皮の間に)という言葉に置き換え、ひねりを加えた、洒落た表現にしています。
On ne badine pas avec l'amour.
「愛をいいかげんに取り扱ってはならない」という意味です。
次の 2 つのイラストでは、この諺をもじって、On ne badine pas avec... le Pneu. (タイヤをいいかげんに取り扱ってはならない)と書かれています。
小さな文字で、「タイヤがパンクしたまま走ると、修理がきかなくなるから、やめるように」、「タイヤがパンクしたら、すぐにスペアタイヤに交換するように」といった内容のことが書かれています。
Qui s'y frotte s'y pique.
次のイラストでは、諺の前半(Qui s'y frotte)だけが書かれています。
有名な諺なので、後半は言わなくてもピンときます。
se frotter は、ここでは「手出しをする」というよりも、「自分をこすりつける」という即物的な意味で使われています。
内容的に「タイヤ」という「物」が主語なので、受身的に「こすられる」という意味になります。
今の車では考えられませんが、自動車の黎明期には、ハンドルをいっぱいに切った時に、タイヤが車の一部(ボディや他の部品など)にぶつかることもあったようです。
タイヤがぶつかる(「こすられる」)と、タイヤが傷ついてしまう(「刺され」たように亀裂が入る)から注意が必要だ、というような内容が書かれています。
つまり、「こすられると損傷する」というような意味にこの諺が解釈されています。
Tant va la cruche à l'eau qu'à la fin elle se casse.
次のイラストでは、この諺をもじって、Tant va la chambre au feu... というタイトルがつけられています。
la chambre とは chambre à air のことで、タイヤの「チューブ」を意味します。
生半可な知識で、タイヤのチューブを火にあぶって修理しようとすると、かえって駄目にしてしまう、というような内容のことが書かれています。
「チューブを何度も火にあぶると...」と訳すことができます。
「いくら丈夫なミシュランのチューブでも、何度も火にあぶれば駄目になる」というような意味です。
なお、以上のイラストでは、日本では別名「ミシュランマン」とも呼ばれる Bibendum (ビバンドム)が、現在とは異なる形(単純化されていない形)で所々に小さく描き込まれています。
Bibendum は、フランス語では(「ビバンダム」ではなく)「ビバンドム」と発音します。これはもともとラテン語であり、ラテン語がそのままの形でフランス語に入った単語には特殊な発音規則が適用されるからです。
Bibendum の en も、例外的に in, im などと同じ発音の鼻母音になります。
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