北鎌フランス語講座 - ことわざ編 ディクトン
ディクトン
具体例は次のページで取り上げています。
ディクトンについて
フランス語で「ことわざ」を意味する単語はいくつかありますが、ここでは proverbe(プロヴェルブ)と対比した場合の dicton(ディクトン)に焦点を当ててみます。
- dicton(ディクトン)の訳について
これまで、堀田・奥平・植田 (1983)、ビドー・ド・リール (1996) 等に従い dicton は「俚諺(りげん)」と訳してきました。しかし、実際には日本では「諺」と「俚諺」はほとんど同じ意味で使われる、というもっともな指摘をいただいて以来、dicton に対応する日本語(諺の類義語)が存在しない以上、むしろカタカナで「ディクトン」とすべきだと思うに至ったため、訳語を変更しました。(2015/1/13)
proverb (プロヴェルブ) | dicton (ディクトン) | |
内容 | 人生の行動指針など | 暦(こよみ)・気象に関するものが多い (農民が種蒔き・収穫するためには、自然を観察する必要があったため) 「俗信」の要素が強い |
表現方法 | 隠喩(メタフォア)を使用する | 隠喩を使わず、直接的に表現する |
意味の解釈 | 文字通りの意味に隠された比喩的な意味を考える必要がある | 文字通りの意味に受け取ればよい |
伝承形態 | 古来から文法の授業の一環としても教えられてきた (*) | 農村で口承で伝えられた (特に、農作業に従事せずに家にいる祖母から孫へ) |
学問的な 性格 | 文学的(な面もある) (文学作品にもしばしば登場する) | 民俗学的 (文学作品ではほとんど取り上げられない) |
言葉 | 標準語 | 方言(も多い) (ただし19世紀の民俗学者が本に収録する際に、多くは標準語に直された) |
その他の 特徴 | 二要素からなる独特なリズムがあって、韻を踏むことが多い わらべ歌(comptine)に近い |
- この表は、主に Agnès Pierron, Dictionnaire des dictons et proverbes, 2000 を参考にまとめたものです(ただし、表中の (*) 印は同書では触れられていません)。この著者ピエロンはロベールの諺辞典の dicton(ディクトン)の部を担当しており、同辞典でも同様の分類が採用されています。また、ラルースの諺辞典の序文でも dicton(ディクトン)はほぼ同様に定義されており、現代の研究者も含め、基本的には上の表のような捉え方が一般に受け入れられています。
- proverb(諺)と dicton(ディクトン)を分けるのは、上に記載した「隠喩(メタフォア)を使用するかどうか」ではなく、「人間に関係するかどうか」だ 、とする説もあります。「諺」は、犬や猫についての内容であっても、結局は人間について述べているのに対し、「ディクトン」は主に自然・気象に関するもので、人間との関係が希薄だ、というのがその主張です。
- Jacques Pineaux, Proverbes et dictons français, PUF, 1956 では、dicton は違ったふうに捉えられています。同書では、proverbe が「隠喩的」で dicton は「直接的」という点は同じですが、例えば「天は自ら助くる者を助く」なども(隠喩を使わない直接的な表現であるために) dicton に分類されています。そのため、この本の日本語訳(田辺貞之助訳『フランスのことわざ』、クセジュ文庫)では、dicton は主に「格言」と訳されています。なお、Greimas (1970) でも同様に proverbe は比喩的、 dicton は直接的なものと区別されています。
- 一般の話し言葉では、proverb と dicton の使い分けはいい加減なことも多く、ほとんど同義語のように使われることもあります。
- 日本語で読めるフランスのディクトンに関する本としては、堀田・奥平・植田 (1983)、ビドー・ド・リール (1996) があります。
上の考え方に従えば、本ホームページではこれまで主に proverbe(諺)ばかりを扱い、あまり dicton(ディクトン)は取り上げてきませんでした。
今後は、もう少し dicton(ディクトン)も取り上げてもいいと思っています。
典型的な dicton(ディクトン)の例は、たとえば「ディクトンのフェーヴ」を参照してください。
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