「北鎌フランス語講座 - ことわざ編」では、フランス語の諺の文法や単語の意味、歴史的由来などを詳しく解説します。

北鎌フランス語講座 - ことわざ編 文献紹介・参考文献

ことわざに関する文献紹介・参考文献

最終更新日:2016年11月6日

日本語の文献

 1. フランス語の諺に関する本 (出版年順)

  • 今井白郎『俚諺百話』(博文堂出版部)
    1929年(昭和4年)刊。定価50銭。100のフランスのことわざを取り上げ、随筆風の解説を添えた文庫本の大きさの本。ことわざは文語調(漢文読み下し調)で訳されていますが、それが今から見ると古風に見えるどころか、かえってことわざらしい感じになっており、たとえば「賭せずんば一物をも得ず」、「細流集って大河となる」、「批評は易く技術は難し」、「人が立案し神が裁決す」、「例外は本則を確認するものである」、「抱え過ぎると緊め損う」、「昵近は軽蔑を生む」など、堂々とした日本語となっています。ただし、フランス語原文は一切記載されていません。『続ことわざ研究資料集成』第13巻(大空社)で復刻。
  • 杉山直次郎訳『仏蘭西法諺』(日本比較法研究所) ⇒ amazon
    1951年刊。アンリ・カピタン『法律用語集』(Henri Capitant, Vocabulaire juridique, 1936)付録の「フランス法諺」(Adages de Droit Français)の部分(多くはラテン語、一部フランス語)を文語調で訳したもの。本書に収められている法諺の訳は山口(2002)でもほぼそのまま踏襲されています。ちなみに、アンリ・カピタンの原典はロングセラーとなり、現在は新しい版が出ています。
  • ジャック・ピノー『フランスのことわざ』(白水社、文庫クセジュ) ⇒ amazon
    1957年刊。田辺貞之助訳。原著は Jacques Pineaux, Proverbes et dictons français, 1956。諺を多方面から簡潔に概観したもので、「ことわざ集」や「ことわざ辞典」ではありません。諺も全部日本語に訳されてしまっており、フランス語が残っていないのが残念。「フランスのことわざがわずかに仏和辞典あたりで断片的にしか紹介されていない」当時に訳された、日本におけるフランス語の諺に関する先駆的な本です。
  • 田邊貞之助『ふらんすの故事と諺』(紀伊国屋書店)  ⇒ amazon
    1959年刊。諺が巧みな日本語に訳され、読み物風の解説になっています。こうした本を読むと、昔のほうが日本語が豊かだったと感じさせられます。エピソードなども豊富。縦組(縦書き)ですが、それほど読みにくさはありません。
  • 小林龍雄『フランスのことわざ』(大学書林)
    1960年刊。「語学文庫」の中の一冊。ことわざを覚えることでフランス語の語彙を増やすことを狙った暗記用の薄い本(全102ページ)ながら、各ことわざに出てくる文法が初心者向けに説明されているという点で特筆すべき本。本ホームページの原点の一つとなっています。
  • 田辺貞之助『ふらんすの格言集』(潮文社新書)
    1966年刊。上記『ふらんすの故事と諺』とほぼ同内容・同文ですが、新書の体裁に合わせてページ数が減り、フランス語が省かれ、索引も付いていません。
  • 田辺貞之助『フランス故事ことわざ辞典』(白水社)  ⇒ amazon
    1976年刊。上記『ふらんすの故事と諺』よりもページ数・収録数も多く、珍しい故事成句や、特定の作家の名言なども載っており、田辺先生の諺研究の集大成といえそうです。縦組(縦書き)なのでフランス語を縦に読まなければならず、通読する場合は少し骨が折れますが、調べる分には気になりません。諺をめぐる雑学事典という趣きです。
  • 吉岡正敞『フランス語ことわざ集』(駿河台出版社)
    1976年刊。定評あるフランスの辞典類をベースに丹念にことわざが採取されています。比較的薄い本ですが、見やすく簡にして要を得た説明で、通読するにはちょうどよい分量です。
  • 渡辺高明・田中貞夫『フランス語ことわざ辞典』(白水社)
    1977年刊。諺によっては由来やエピソード、文化的背景の説明などが詳しく載っており、狭義の諺には当てはまらない慣用句・成句表現(いわゆる「諺的表現」)も豊富に収録されています。解説は Quitard (1842) の影響がきわめて濃厚というか、ほとんど同書を訳しただけの項目が多数を占めています。この全面改訂版が『フランスことわざ名言辞典』(1995年)。
  • 渡辺高明・本多文彦『諺名言に学ぶフランス語 « 読本篇 » 』(第三書房)
    1980年刊。大学の第二外国語の授業向けの教科書。解説はほとんどありません。
  • 田辺貞之助監修、島津智訳『ラルース世界ことわざ名言辞典(増補版)』  ⇒ amazon
    1982年刊。ラルースの諺辞典を訳し、テーマをあいうえお順に並べ替えたもの。日本・中国の諺は差し替えられています(たしかに、元のフランス語の本では日本・中国の諺として見慣れない珍妙な言葉が並んでおり、想像力を働かせても、それが日本語や漢文の何に当たるのか見当がつかないことが多いので、差し替えは妥当かもしれません)。
  • 堀田郷弘・奥平尭・植田祐次『フランスことわざ歳時記』(社会思想社)  ⇒ amazon
    1983年刊。教養文庫。主に下記ビドー・ド・リールの本をもとに、暦(こよみ)・季節にまつわる俚諺(ディクトン)を取り上げながら、フランスでの一年12か月の移り変わりや行事などを歳時記風に詳しく解説した本。諺にフランス語が併記されていないのが唯一残念なところ。
  • ピエール・ギロ『改訳 フランス語の成句』(白水社、文庫クセジュ)  ⇒ amazon
    1987年刊。窪川英水・三宅徳嘉訳。諺は少ししか取り上げられていませんが、古フランス語や古い方言などの歴史的・語源的な観点から、さまざまな成句表現が解説されています。原著は Pierre Guiraud, Les locutions françaises, Que sais-je ?, 1961
  • S. ヴェイユ/L. ラモー著、田辺保訳『フランス故事・名句集』(大修館)  ⇒ amazon
    1989年刊。原著は 1981年刊。フランス語の「成句」の故事来歴を紹介した本。いわゆる諺はほとんど扱われていません。
  • 渡辺高明・田中貞夫『フランスことわざ名言辞典』(白水社)
    1995年刊。上記『フランス語ことわざ辞典』(1977)の「全面訂正版」。別売のCDが用意され、活字が大きく読みやすくなっていますが、収録数は1536から1264にまで減少し、解説も簡素化されています。
  • 調佳智雄、ジャン-マリ・ルールム『フランス語ことわざ用法辞典』(大学書林) ⇒ amazon
    1995年刊。軽妙洒脱な随筆風の解説と、諺を使った日常会話(仏日対訳)をセットにした、重厚なハードカバーの装丁に似合わない、軽いノリの本。
  • ジョルジュ・ビドー・ド・リール著、堀田郷弘・野池恵子訳『フランス文化誌事典 - 祭り・暦・気象・ことわざ』(原書房)  ⇒ amazon
    1996年刊。2 巻本の名著 Georges Bidault de l'Isle, Les vieux dictons de nos campagnes, 1952 の訳。原著の題名を直訳すると、『フランスの田舎の古くからのディクトン』。しかし単なる俚諺(ディクトン)集をはるかに超えた、フランス民俗学の宝庫となっています。諺にフランス語が併記されていないのが残念なところ。『フランスことわざ歳時記』は、この本からトリビアルなエピソードを大幅にそぎ落としたダイジェスト版といった趣きがあります。
  • 篠沢秀夫、ティエリ・マレ『フランス成句の宝庫』(総合法令)  ⇒ amazon
    2001年刊。100 の成句・諺・名言を取り上げ、その解説を通じて「フランス文明」を浮かび上がらせようとした本(諺は 10 個ほど)。フランス人ならではの視点(日本人が気づきにくい事柄)も含まれています。
  • 山口俊夫『フランス法辞典』(東京大学出版会)  ⇒ amazon
    2002年刊。詳細な法律辞典。巻末に掲載されている「フランス法諺」のリストは、諺自体の訳は杉山(1951)の訳と基本的には同じですが、諺の説明は同書を引き継ぎつつ発展させており、非常に有益。

 2. ギリシア語・ラテン語の諺に関する本

  • 田中秀央・落合太郎『ギリシア・ラテン引用語辞典』(岩波書店)  ⇒ amazon
    1937年刊。1963 年新増補版。
  • 柳沼重剛『ギリシア・ローマ名言集』(岩波文庫)  ⇒ amazon
    2003年刊。諺もいくつか含まれています。出典に詳しく参考になり、楽しく通読することができます。
  • 小林標『ローマが残した永遠の言葉』(NHK 出版)  ⇒ amazon
    2003年刊。名言集ですが、諺も少し含まれています。訳が洒落ていて、ものによっては出典や背景が詳しく、参考になります。
  • 野津寛『ラテン語名句小辞典』(研究社)  ⇒ amazon
    2010年刊。収録数は多くはありませんが、原典での文脈も詳しく紹介されており、ラテン語の文法説明もあります。

 3. 日本語の諺に関する本

  • 大後美保『天気予知ことわざ辞典』(東京堂出版)  ⇒ amazon
    1984年刊。気象庁に勤務していた著者が「地方へ出張する機会にことわざを収集」してきた成果。
  • 鈴木棠三『新編 故事ことわざ事典』(創拓社)  ⇒ amazon
    1992年刊。
  • 時田昌瑞『岩波 ことわざ辞典』(岩波書店)  ⇒ amazon
    2000年刊。西洋起源の諺の場合、西洋での歴史についてはほとんど触れられていませんが、その代わり日本にいつ入ってきたのかについて詳細に記載されています。江戸時代などの文献にも詳しく、参考になります。
  • 北村孝一『ことわざの謎』(光文社新書)  ⇒ amazon
    2003年刊。 8 つの諺(二兎を追う者は一兎をも得ず、一石二鳥、艱難汝を玉にす、溺れる者は藁をもつかむ、時は金なり、天は自ら助くる者を助く、大山鳴動して鼠一匹、鉄は熱いうちに打て)に絞り、(西洋での歴史についてはほとんど触れられていませんが)西欧からどのようなルートで日本に移入され定着したかが詳しく考究されています。
  • 『故事・俗信ことわざ大辞典 第二版』(小学館)  ⇒ amazon
    2012年刊。北村孝一監修。『日本国語大辞典』をベースにした、約 1500 ページの諺大事典。1982年刊の初版に比べると、説明が全面的に書き換えられ、用例と説明が大幅に増えています。

  • 『俚諺資料集成』(大空社)、1985
    全12巻。金子武雄監修、ことわざ研究会編。
  • 『ことわざ研究資料集成』(大空社)、1994/1996
    正 全22巻+別巻、続 全19巻+別巻。北村孝一・時田昌瑞監修、ことわざ研究会編。
    ⇒大空社「言葉/言語学」

 4. 英語の諺に関する本

  • E. C. Brewer, 『ブルーワー英語故事成語大辞典』(大修館書店)  ⇒ amazon
    原著の初版は 1870年刊。日本語訳は 1994年刊。「故事成語」も含まれていますが、むしろ、いわれのある言葉についての由来や文化的・歴史的背景を詳しく説明した事典という感じです。フランス語もかなり収録されています。英語原文は 1898年版 (bartleby.com)Harper & Brothers版 (IA)Wordsworth 版 (GB)(一部)などが閲覧可能。
  • 大塚高信・高瀬省三『英語ことわざ辞典』(新装版)(三省堂)  ⇒ amazon
    1976年刊。新装版は 1995年刊。「読む」よりも「引く」ために作られた、客観的な辞書のような体裁。
  • 北村孝一・武田勝昭『英語常用ことわざ辞典』(東京堂出版)  ⇒ amazon
    1997年刊。個性的な説明が多く、おもしろく読むことができます。
  • 戸田豊『現代英語ことわざ辞典』(リーベル出版)  ⇒ amazon
    2003年刊。1282 項目、812 ページ。シェイクスピアやチョーサーなどの用例が豊富で、索引も充実しています。

 5. その他

  • 『大越成徳遺稿』(財政経済時報社)
    1926年刊。幕末に生まれ、英語とフランス語に通じて経済・貿易にも明るく、外交官(ブラジル公使)となった大越成徳(おおこし なりのり、1855 [安政2] -1923 [大正12])の遺稿集(欧文177ページ、和文160ページ)。Google で閲覧可能。
    ここに収められた « Japanese Proverbs and Some Figurative Expressions of the Japanese Language » は、1892年(明治25年)10月12日に倫敦(ロンドン)日本協会の第5回総会で発表され、のちに同協会の議事録を兼ねた雑誌(Transactions and proceedings of the Japan Society, London, Volume II, 1895)に掲載されたもので、49個の諺が日本語・英語・フランス語で比較対照されています。また、似た内容の « Proverbes japonais et français » (未発表?)では 34個の諺が日本語とフランス語で比較対照されています。
  • 山川丈平『ドイツ語ことわざ辞典』(白水社)  ⇒ amazon
    1975年刊。
  • 大島直政『遊牧民族の知恵 - トルコの諺』(講談社現代新書)  ⇒ amazon
    1979年刊。トルコの諺を取り上げながら、トルコ人の風習や考え方などを紹介した本。「明日のガチョウより今日のニワトリ」、「ずぶ濡れになった者は雨を恐れない」、「革命とビフテキと初夜で、血の流れないのは良くない」など、おもしろい諺が取り上げられています。
  • 外山滋比古『ことわざの論理』(ちくま学芸文庫)  ⇒ amazon
    1979 (2007) 年刊。24 の諺を取り上げ、随筆風に解説した本。
  • 並松征四郎『スペイン語諺読本』(駿河台出版社)  ⇒ amazon
    1986年刊。
  • 吉岡正敞『ロシア語ことわざ集 - 日英仏対照』(駿河台出版社)  ⇒ amazon
    1986年刊。1214 のロシア語の諺について、対応する英語とフランス語の諺が(存在する場合は)記載されており、巻末に日本語・英語・フランス語の索引がついています。
  • 北村 孝一『世界ことわざ辞典』(東京堂出版)  ⇒ amazon
    1987年刊。ヨーロッパに限らず、世界各地の少数民族を含む多くの国の諺がテーマ別にまとめられ、示唆に富んだ内容を含む比較的詳しい解説がつけられています。他の国の諺と照らし合わせることで理解が進むこともあることがわかります。
  • 栗原成郎『スラヴのことわざ』(ナウカ)  ⇒ amazon
    1989年刊。ロシア語だけでなく、東欧まで含む広い地域をカバーするスラヴ民族の諸言語に見られる類似の諺を集めてテーマ別に分類し、丁寧に解説した本。
  • 山崎信三、フェリペ・カルバホ『スペイン語ことわざ用法辞典』(大学書林)  ⇒ amazon
    1990年刊。
  • 外山滋比古『現代ことわざ辞典』(ライオン社)  ⇒ amazon
    1995年刊。日本語、英語、フランス語、ドイツ語などのことわざを集めた本で、各国のことわざの比較としても面白く読むことができます。外国語の諺が「諺らしく」訳されている点も優れています。ただし、全体的に英語偏重主義が見られ、もとは他の言語の諺なのに英語が書いてあるケースが多数見られます。個別の諺は各言語の専門家が執筆しており、参考になります。フランス語は田中登・佐々木敏光の両氏が執筆されています。
  • 山崎信三「『ドン・キホーテ』に見ることわざ」
    (1997年刊『ドン・キホーテ讃歌』(行路社)、pp.101-108)
    「アメリコ・カストロの『ドン・キホーテ概説』(第21版、ポルア社、メキシコ、1985年)によれば(...)『ドン・キホーテ』には204例のことわざと1299例の格言および慣用句等がある」とした上で、この204例について統計的に簡潔に分析されています。例えば、『ドン・キホーテ』に出てくる諺の総数は204で、登場回数は256回、そのうちサンチョ・パンサの口から出てくるのは159回で全体の62 %にあたる、と記されています。
  • 山崎信三「『ドン・キホーテ』のことわざ選集」
    (2005年刊『「ドン・キホーテ」事典』(行路社)、pp.136-166)  ⇒ amazon
    『ドン・キホーテ』に出てくる「1500余り」の諺・格言・慣用句のうち300あまりを取り出し、アルファベット順に並べて簡潔な説明を加えたもの。
  • 『日英語の比較―発想・背景・文化』第二版(日英言語文化研究会)  ⇒ amazon
    初版 2005年、第二版 2006年刊。「奥津文夫教授古稀記念論集」。第3章に以下の諺関連の論文が収録されています。
    奥津文夫「日英ことわざと背景文化の比較」
    北村孝一「外国から日本に入ったことわざの表現」
    武田勝昭「日英ことわざの表現法の比較」
    森洋子「ブリューゲルの《ネーデルラントの諺》と日英の諺の比較」
  • 栗原成郎『諺で読み解くロシアの人と社会』(東洋書店)  ⇒ amazon
    2007年刊。小冊子「ユーラシア・ブックレット」第 104 号、全 63 ページ。ウォッカを勧める時のことわざなど、ロシアならではの諺ばかりが集められています。
  • 鄭芝淑「比較ことわざ学の可能性」
    2008年3月31日の名古屋大学言語文化部・国際言語文化研究科『言語文化論集』第29巻第2号所収。2007年9月22日に明治大学で開催された「ことわざ学会」のフォーラムで発表された内容に加筆修正したもの。
  • 室井和男『永久に生きるとは -- シュメール語のことわざを通して見る人間社会』(海鳴社)  ⇒ amazon
    2010年刊。
  • 池田節雄「フランス法諺に見る民法の原理
    2010年10月発行の「白鴎大学法科大学院紀要」 4, pp.145-162 (CiNii)。弁護士の実務経験が豊富な筆者ならではのフランス法諺にまつわるエピソードと解説が記載されています。

外国語の文献

  仏仏辞典については「仏仏辞典」を参照。
  フランス語訳聖書については「フランス語訳聖書」(読解編)を参照。

  • アリストテレス『弁論術』
    紀元前 4 世紀に書かれた本。諺 (paroimia) は比喩の一種であると定義され、例として「カルパトス島民が野兎を招き入れたように」という表現が挙げられているのが注目されます(第3巻11章)。ただし、同時に別の箇所(第1巻15章)では「決して老人によくしてはならぬ」という、比喩を用いていない(格言と呼ぶべきかもしれない)表現も「諺」 (paroimia) と呼ばれているので困惑させられると Le Bourdellès (1984), p.117 で指摘されています。日本語訳は戸塚七郎訳『弁論術』(岩波文庫)、1992 年刊。  ⇒ amazon
  • Publilius Syrus, Sentences
    古代ローマのカエサルと同時代、紀元前1世紀に生きたプブリリウス・シュルスによるラテン語の『格言集』。プブリリウスは、ながらく「リ」が1つ少ない「プブリウス」Publius と呼ばれていましたが、1865年にドイツ語圏スイスの文献学者ヴェルフリン E. Wölfflin によってプブリリウス Publilius が正しいと確定されています。生没年代は不明ですが、生まれたのは紀元前93年頃Schulze-Busacker (2012), p.57)、没したのは、最後の足どりが辿れるのがカエサルの死の翌年にあたる紀元前43年なので(後掲 Flamerie de Lachapelle 版序文, p.XV)、それ以降と考えられます。シリアで生まれたプブリリウスは、出身地から「シリア」を意味する「シュルス」と名づけられ、奴隷としてローマに連れてこられたものの、知性と才能ゆえに奴隷から解放されます(解放奴隷)。生存中は「擬曲」(=ミモス、観客を笑わせるために変な顔つきや卑猥な身振り、時事的な諷刺などを挟んだ大衆的な喜劇)の作者兼役者として名を馳せ、ギリシアの喜劇作家メナンドロスの影響のもと、格言を織り込んだ多くの擬曲を作りますが、もともと擬曲は即興的な話芸という側面が強く、知識人からは軽んじられていたこともあって、作品は散逸してしまいます。しかし、劇の前後関係(どの登場人物が言った言葉なのか)とは無関係に格言だけを抜き出してアルファベット順に並べたものが編纂され、格言集として珍重されることになります。編纂したのはプブリリウス本人とする説、セネカ(紀元後65年没)とする説、セネカの友人ルキリウスとする説など諸説あります。いずれにせよセネカが高く評価していたのは事実で、『倫理書簡集』(ルキリウス宛書簡)などでたびたび言及されていることもあり、中世~ルネッサンス期のフランスでは「セネカの諺」または「セネカの格言」と題して流通することになりますJ. Vignes (2005), 193 ; Schulze-Busacker (2005), p.264。中世を通じて学校の教科書として非常によく読まれ、写本を通じて伝えられる過程でプブリリウス以外のものまでプブリリウスの本に混じって流布したため、版によって格言の数は異なりますが、昔の版には1,000前後収録されています。近代最初の学問的な校訂は1869年にヴェルフリンによって行われGoogle または The Latin Library で閲覧可能)、ヴェルフリンはそれまでプブリリウスのものとされてきた400近くの格言を「偽」と判定しています(偽と判定されたものの中には「二兎を追う者は一兎をも得ず」も含まれます)。続いて1880年に同じドイツ語圏スイスの文献学者マイヤー W. Meyer が優れた校定本を出し、これが現在に至るまで決定版に近いものとなっていますGoogle で閲覧可能)。近年では Beckby 版(1969)などもありますがBibliotheca Augustana で閲覧可能)、必ずしも評価は高くなく、最近フランスで出た羅仏対訳のフラムリー・ド・ラシャペル版も主にマイヤー版に依拠しています。マイヤー版には約700、フラムリー・ド・ラシャペル版には約730の格言が収められています。
    参考:Publilius Syrus, Sentences. Introduction, traduction et notes par Guillaume FLAMERIE DE LACHAPELLE (Collection Fragments), Paris, « Les Belles Lettres », 2011.
    (2015/9/19 加筆訂正)
  • Quintilianus, Institutio Oratoria
    クインティリアヌス『弁論家の教育』全12巻。弁論術教師・法廷弁論家として当代随一の名声を誇ったクインティリアヌス(c35-c100)が、アリストテレス『弁論術』やキケロ『弁論家について』などを踏まえ、弁論術について論じた本(ラテン語)。主に法廷での論争を念頭に置いているので、「弁論家」というよりも「弁護士」と呼ぶのがふさわしい部分もありますが、内容は多岐にわたり、第1~2巻は教育論の古典、第8巻第6章「比喩」は修辞学の古典とされています。諺に関係するのは、特に第5巻第11章「例示」、第8巻第5章「警句」あたり。たとえば第5巻第11章41では次のように書かれています。
    「一般に受け入れられている諺もまた、作者が不明であるというまさにそのことによって、いわばすべての人々のものとなります。(...)本当だとみんなに思われていなければ、こうした諺は長くは言い伝えられてこなかったでしょう」(森谷・渡辺訳)。
    日本語訳は、抜粋訳が明治図書(1981)から主に第1, 2, 10, 12巻を訳した小林博英訳(全2冊)が出ています。完訳は京都大学学術出版会から全5冊で刊行中で、既刊は1冊目(2005):第1~2巻、2冊目(2009):第3~5巻、3冊目(2013):第6~8巻(森谷宇一、戸高和弘、渡辺浩司、伊達立晶、吉田俊一郎訳)。
  • Disticha Catonis
    紀元後 3世紀頃にラテン語で書かれた『カトーの二行詩』。作者カトーは、中世には古代ローマの執政官・監察官だった大カトー(紀元前234-149年)と混同され、ついで長らくディオニシウス・カトー (Dionysius Cato) なる人物が書いたとされてきましたが、現代ではそれも根拠がないことが明らかになっています。結局、カトーがどのような人物なのかは不明で、たとえばクルティウスの名著『ヨーロッパ文学とラテン中世』(みすず書房)では「監察官のカトー」(大カトー)と区別して「箴言作者のカトー」と呼ばれ、Vignes (2005), p.190 では pseudo-Dionysius Cato(擬ディオニシウス・カトー)と呼ばれています。この作品は、「息子に宛てた手紙」と散文による 57 (58) の短文を除けば、全4巻の合計144(第1巻40、第2巻31、第3巻24、第4巻49)の二行詩で構成されています。内容は道徳的な格言集のような感じで、たとえば「もし精神的に幸福でありたいと思ったら、富を軽蔑せよ。富を尊敬する者はいつまでも貪欲な乞食である。」、「いつもいっそう長く起きていて、睡眠には余り身を任すな。休息が長いと悪を助長するから」(國原訳)などといった言葉が並んでいます。中世には有名な学校の教科書として、ラテン語の基礎を習った者であれば誰もが知っていたようで、14世紀イギリスのチョーサー『カンタベリー物語』の「粉屋の話」には「大工は無学であって『人はその同類と結婚すべきなり』といったカトーのことなどは知りませんでした」(桝井迪夫訳、岩波文庫、上巻 p.149)と書かれています。同じ14世紀イギリスのラングランド『農夫ピアズの夢』でも、聖書と並んでいくつもの言葉が引用されています。中世には各国語訳も出ており、諺の歴史にも大きな影響を与えたと考えられます。12世紀後半~13世紀にかけて古いフランス語への訳が 5種類出ておりSchulze-Busacker (2012), p.104)、そのうち 1150-1180 頃の Élie de Winchester による訳である L'afaitement Catun(カトーの教訓)が閲覧可能。ラテン語原文は、現代の校本の決定版は Marcus Boas 版 (1952) ですが、インターネットでは The Latin Library などで閲覧可能。英訳は James Marchand訳Wayland Johnson Chase訳 (Wikisource) などが閲覧可能(参考:ARLIMA)。日本語訳は、國原吉之助『ラテン詩への誘い』(大学書林、2009) p.31, 223-226 で一部を読むことができます。  ⇒ amazon
  • Egbert de Liège, Fecunda ratis
    1022~1024年頃に書かれたエグベール・ド・リエージュ『満載の舟』。972年頃にリエージュ(現ベルギー)で生まれ、リエージュ司教座聖堂付属の学校長を務めたエグベール・ド・リエージュ(リエージュのエクベルトゥス)が、聖職者を養成するために編纂した、ラテン語で書かれた学校の教科書。内容は大きく2部に分かれ、前半は1~2行の諺・格言(合計1768行)、後半は短い寓話・物語など(合計605行)で構成され、ペローの童話「赤頭巾」の元になった話が含まれていることでも知られています。諺の多くは、聖書やギリシア・ラテンの古典作家の文に由来しますが、当時の世俗語による諺も(ラテン語に訳された形で) 200以上も収録されている点が注目されます(Schulze-Busacker (2012), p.75)。このうち100近くがフランス、約60がドイツの伝統に属する諺で、50近くが不明または作者が作ったものであると、中世の諺研究の泰斗ザムエル・ジンガーは述べています(Ibid., p.76)。決定版である Ernst Voigt 版(1889)が Internet Archive または Google で閲覧可能。この中には「転石苔むさず」「光るもの必ずしも金ならず」「猫が去って鼠たちが踊る」なども確認され、これらの諺の全言語を通じての文献上確認可能な最古の用例といえそうです(詳しくは各諺の【由来】の項目を参照)。
  • Alain de Lille, Liber parabolarum
    アラン・ド・リール『箴言の書』。アラン・ド・リール(1128以前 - 1202、ラテン語名 Alanus ab Insulis アラヌス・アブ・インスリス)は、12 世紀後半にラテン語で多くの作品を残した、北仏リール出身の神学者・詩人。代表作の一つ『自然の嘆き』は、アレゴリー(寓喩)を多用した、中世ラテン語文学を代表する作品のひとつで、『薔薇物語』後編の主な発想の源の一つとなっています(ちなみに、もう一つの代表作『アンティクラウディアヌス』の日本語訳は上智大学中世思想研究所編『中世思想原典集成8 シャルトル学派』(平凡社)に所収)。
    このアラン・ド・リールの『箴言の書』という書名は、他にも『寓喩の書』、『諺の本』など、色々な訳が考えられます。ラテン語の題名 Liber parabolarum に含まれる parabola はフランス語の parabole に相当し、「たとえ話、寓言、寓喩、箴言、諺」など色々な意味があります。ロルサンによれば「parabole とは、寓喩を用いた教訓的な話のことである。一番有名なのは福音書に収められているものである 〔引用者注:新約聖書のイエスによる「たとえ話」を指す〕。しかし中世には必ずしも話とは限らず(...)一つの文でもよかった。教訓的という点で proverbe と parabole は共通している」(Lorcin, 2011, p.134)。実際、14世紀末に出たこの本の仏語訳では、題名がLes proverbez (proverbes) d'Alain (『アランの諺』)となっています。ただし、当時の proverbe(諺)という言葉は、今よりも意味範囲が広かった (Cf. Ibid, p.131) という事情もあり、日本語訳の決定には困難がつきまといます。実際の作品は 2 行ずつセットになったラテン語の詩の形式を取り、そのほとんどが諺を中心に展開されていますが、単なる諺の羅列ではなく、作者による創作も交えたスムーズな流れのある詩となっており、神秘主義思想家らしい暗示的な内容となっています。この作品は中世には学校の教科書として使用されたようで、古フランス語への翻訳が 3 種類(13世紀後半、14世紀末、15世紀末に1種類ずつ)存在し、このうち2番目と3番目のものについては現代の研究者 Tony Hunt による校本が出ています(3番目のものは Gallica でも閲覧可能で、仏語解題は ARLIMA にあり)。
  • Li proverbe au vilain ; Proverbes au vilain
    『百姓の諺』。12 世紀後半(1180 年頃)にフランスの無名の作者によって作られた、末尾に諺を付した短い詩を集めた詩集(冠詞 Li は Le の古い形)。ピノー『フランスのことわざ』では次のように紹介されています。「農民の諺 - 一一七五年ごろ、伯爵フィリップ・ド・フランドルの庇護をうけていた詩人が一連の六行詩(各行六音節の六行詩)をつくったが、その末尾にかならず《その農民がいった》という極り文句をもつ諺をつけた」(田辺訳、p.21)。
    なお、「vilain」は現代では主に「卑しい」「醜い」といった意味の形容詞で使われますが、古くは「農民」という意味の名詞でした。ただし、早くから「田舎者」「下賎な者」という否定的なイメージが生まれており、農民というよりもむしろ「百姓」に近いといえます。
    ドイツの Adolf Tobler による校定本(1895)が Internet Archivetext 版)で閲覧可能(本文は古フランス語。序文・注はドイツ語)。また、Le Roux de Lincy (1859) の付録にも抜粋が収録されています。
    この作品に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      Loin des yeux, loin du cœur.
      Oigniez a mastin le cul, il vous chiera en la paume.
      Plus on remue la merde, plus elle pue.
      Rome ne s'est pas fait en un jour.
      Tant va la cruche à l'eau qu'à la fin elle se casse.
      Tout ce qui brille n'est pas or.
  • Robert de Ho, Les Enseignements de Robert de Ho dits enseignements de Trebor
    12 世紀後半~ 13 世紀初頭のロベール・ド・ホー(Robert de Ho, c.1140 - c.1210)による、息子に与える教訓という形を取る作品。
    1901年に活字化されており、Internet Archive で閲覧可能。
    この作品に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      À Rome, fais comme les Romains.
  • Julius Zacher, « Altfranzösische Sprichwörter » in Zeitschrift für Deutsches Altertum und Deutsche Literatur, Bd. 11 (1859), pp.114-144
    13世紀の作者不明のサン=トメール(フランス北端の街)に由来すると思われる写本(オランダのライデン大学図書館所蔵)を、ドイツ人の学者ユリウス・ツァハーが活字化し、雑誌に掲載した「古フランス語の諺」。 269 のフランス語の諺と、それに対応するラテン語(逐語訳ではない)が記されています。 Internet Archive または Google で閲覧可能。一部は Morawski (1925) にも収録されています(記号 L)。
  • Renaud de Louens, Le livre de Mellibee et Prudence
    14世紀前半(1337頃?)のルノー・ド・ルーアン『メリベとプリュダンス』。ルノー・ド・ルーアンはボエティウスの『哲学の慰め』をフランス語に訳したことでも知られていますが、この『メリベとプリュダンス』は、イタリア北部ブレシアで法律家としても活躍したアルベルターノがラテン語で書いた『慰めと忠告の書』 (Albertano da Brescia, Liber consolationis et consili, 1246) をフランス語に訳したもの。内容は、敵の襲撃を受けて重傷を負った妻プリュダンスの姿を見て夫メリベが取り乱すが、妻は夫に冷静になるように忠告するために、さまざまな諺や格言を引用する、という数十ページほどの話。特にソロモンとカトーの言葉が多く取り上げられています。アルベルターノの本は当時は人気があったらしく、何度かフランス語に訳されていますが、このルノー・ド・ルーアンによる訳が最も重要で、1393年頃の『パリの家事』 (Ménagier de Paris) という本にもそのまま採録されています。『パリの家事』は1846年に活字化されています(Gallica, Internet Archive, Google 等で閲覧可能、pp.186-235に該当)。
    このルノー・ド・ルーアンの『メリベとプリュダンス』は、その半世紀後にイギリスのチョーサー(1343?-1400)が忠実に英語に翻訳し、『カンタベリー物語』に組み込んで「メリベ(メリベウス)の物語」としたことで、より広く知られるようになりました。
    なお、Prudence は普通名詞だと普通は「慎重さ、用心」という意味で使われますが、キリスト教ではいわゆる「枢要徳」の一つ「賢明」を指すので、これを擬人化したものではないかと思われます。「賢明」については『カトリック教会のカテキズム』 No.1806で説明されており、TLFi の定義によると「自分の魂の救済に導くものを識別し、選び取ることを知っている人の徳」を指します。
  • Estienne Legris, Recueil de proverbes
    15 世紀前半(1444 年以前)にエチエンヌ・ルグリが約 800 のフランス語の諺を ABC 順に並べ、4~5 行のラテン語で注釈を加えた諺集。ローマのバチカンの図書館に所蔵されていた写本を、『薔薇物語』の初めての現代的な校本を出した E. ラングロワが 1899 年に活字化しています。その際、ラテン語による注釈は「刊行する価値がない」として省かれ、フランス語の諺のみが活字化されています。その多くは Morawski (1925) にも収録されています(記号 R)。 Langlois, Ernest, « Anciens proverbes français », Bibliothèque de l'École des chartes, 1899, tome 60, p. 569-601 (Persée) で全文を閲覧可能。
  • Proverbes en rimes
    15世紀終わり(1485-1490 年頃)に書かれたと推定される作者不明の『韻文の諺』ないし『諺詩集』(どちらの訳も可能)。短い 8行詩と絵をセットにした 182 + 4 の図版からなり、8行の詩の末尾に諺が織り込まれている点で『百姓の諺』の系譜につらなります。1937年に G. Frank & D. Miner が米国ボルティモアのウォルターズ美術館所蔵本をもとに詳しい注釈をつけて活字化しています。この本に出てくる言葉は、仏仏辞典TLFi の語源欄で初出例としていくつか取り上げられており、図版(・詩)のいくつかは北村 (1987)森 (1992) でも取り上げられています。

その他、フランス中世の諺は、下記 Morawski (1925) ; Stefano (1991) ; TPMA などで活字化されています(フランス語での文献紹介は ARLIMA を参照)。

  • Jean de la Véprie, Proverbes communs
    1495 年刊。ジャン・ド・ラ・ヴェプリ(Vesprie とも綴る)の『よく使われる諺』。フランス語の諺を集めた十数ページの小冊子で、15 世紀末に複数の版が出ています。1539年版 (Google) が閲覧可能。Le Roux de Lincy (1842) などでも引用されています。下記 Jean Gilles de Noyers の諺集は、これをベースにしたものです。
  • Érasme, Adages
    1500年刊。ルネッサンス期の人文主義者エラスムス(1466-1536)が古代ギリシア語・ラテン語のことわざを集め、詳細な注釈を付した『格言集』。(一般には『格言集』という訳語がよく用いられるので、それを踏襲しておきますが、内容的には「格言」ではなく「ことわざ」なので、本来なら『ことわざ集』と呼ぶべきだと思われます。詳しくは「エラスムス『格言集』序文の要約」のページを参照)。
    この本によって、エラスムスはギリシア・ローマの遺産の一部を文字通り「再生」(ルネッサンス)させたことになります。1500年にパリで初版が刊行された時は諺の数は 820 だったのが、好評を博したために生前だけでも30前後の版を重ね、その間に加筆を繰り返してエラスムスが没する1536年には4151項目にまで増えています。1500~1600年の100年間では132の版が出ているので、16世紀のベストセラーといえます。エラスムスはネーデルラント(オランダ)人ですが、オランダ語ではなくラテン語で書いたことによってヨーロッパ中の知識人に読まれ、ラブレーをはじめとしてフランス文学にも影響を与えています。また、このエラスムスの本はギリシア語・ラテン語の諺集の決定版となったことで、各国において自国語を見直す契機となり、フランス語では Jean Gilles de Noyers の諺集Charles de Bovelles の諺集 を生み出すきっかけとなったと考えられます(J. Vignes (2005), pp.195-196)。
    フランス語訳は最近、Les Belles Lettres社から本文4巻 + 索引1巻の5巻セット(2011)が刊行されました。左のページにラテン語、右のページに仏語訳という対訳形式になっており、もとのラテン語に忠実な、やや生硬なフランス語に訳されていますが、60人以上が翻訳に参加した信頼できる版であり、本ホームページでは主にこれを参照しています。この版の校訂によるラテン語原文は Mondes Humanistes et Classiques で全文をダウンロード可能。
    英語訳は、トロント大学出版部からエラスムス全集第31~36巻の6巻本(1982-2006)として全訳と注釈が出ており、そのうち第31巻第32巻第33巻第34巻第35巻、および抜粋版)がGoogleで一部閲覧可能。
    なお、『格言集』全4151項目の通し番号は、伝統的には千の位と百の位を表すローマ数字2つと、十の位と一の位を表すアラビア数字によって表記します。通し番号99番まではローマ数字の部分は I, I と表記されるので、ローマ数字の部分は1つ繰り下げて理解する必要があり、例えば「IV, VIII, 28」は3728番を意味します。
    なお、『痴愚神礼讃』(1511年)にも、いくつか諺が出てきます。このラテン語原文は Bibliotheca Augustana で閲覧可能。リンク集は UQAC が便利。
  • Jean Gilles de Noyers, Proverbia gallicana ou Proverbes communs
    1519 年刊。ジャン・ジル・ド・ノワイエ(別名 Nucerin)の『フランスの諺』または『よく使われる諺』。諺に関する中世の写本の編集にも携わったと考えられるジル・ド・ノワイエが、Jean de la Véprie の諺集をベースに集めたフランス語の諺にラテン語訳を付し、2か国語併記の形にした小冊子。ルネッサンス期の人文学者による代表的な諺集として多くの版を重ねました。 1558 年版 が Gallica で閲覧可能。Jean Nicot の辞典の巻末に付録として収録されています。Gruter (1610) の付録の「フランスの諺」の部も、この本を元にしているようです(ただし、実際に取り上げられている諺や字句は版によって異なるようで、Nicot の付録と Gruter の付録では異なります)。
  • Pierre Gringore, Notables enseignements, adages et proverbes
    1528 年刊。詩人・劇作家ピエール・グランゴール(1475-1539)の諺集『著名な教訓、格言および諺』。「初版に飽き足らず、1 年後に第 2 版で大幅に増補した」(Bohdana Librová, 2005)ようです。初版(1528 年版)1533 年版が Gallicaで閲覧可能。ただし、中世の綴りに近いフランス語がブラックレターで印刷されているので、読むのに苦労します。
  • Charles de Bovelles, Proverbiorum vulgarium libri tres
    1531年刊。哲学・神学・幾何学などに関する著作を残した思想家シャルル・ド・ボヴェル(1479-1567?)がフランス語の諺をラテン語で解説した本。初版がHathiTrustで閲覧可能。なお、ボヴェルは1557年にはフランス語で解説した諺の本を出しています(下記参照)。
  • Giovani Bellero, Bonne response à tous propos
    1547年刊。ジョヴァンニ・ベレロ『あらゆる言葉に対する良い返事』。会話の中に当意即妙に諺を差し挟めるようにという意図で作られた諺集(Cf. J. Vignes (2005), p.199)。表紙には「イタリア語からフランス語に翻訳・翻案してアルファベット順に並べた」と書かれていますが、必ずしも忠実な翻訳ではく、イタリア語の諺に対応するフランス語の諺を当てはめた場合も少なくないようです。初版原文が Google で閲覧可能。
  • Hernán Núñez, Refranes o proverbios en romance
    1555年刊。ギリシア語に堪能で多言語対訳聖書(コンプルテンセ)の編纂にも大きな役割を果たしたスペインの人文主義者エルナン・ヌーニェス(c1473-1553)による大部の諺集(死後刊)。スペイン語だけでなく、フランス語、イタリア語、ポルトガル語その他の諺も原語のまま収録されており、スペイン語訳がつけられています。先行するスペイン語の諺集との類似性が指摘されており、フランス語に関しては Bovelles (1531) と重複する諺が多いようです。インターネットでは1804年刊の4巻本(Vol.1, Vol.2, Vol.3, Vol.4)がInternet Archiveで閲覧可能。現代の校本は2001年に2巻本が出ています。(Cf. Madroñal (2002)
  • Charles de Bovelles, Proverbes et dicts sententieux, avec l'interprétation d'iceux
    1557年刊。シャルル・ド・ボヴェル『諺と金言ならびにその解釈』。1531年にはフランス語の諺をラテン語で解説した本(上記参照)を出していたボヴェルが、今度はフランス語で解説し、項目のみラテン語訳をつけた、実質100ページ少々の小冊子。現代では使われなくなった諺がほとんどですが、意味や使い方がフランス語で丁寧に解説されています。初版が Gallica または BVH で閲覧可能。
  • Mathurin Cordier, Colloques
    1564 年刊。マチュラン・コルディエが書き下ろしたラテン語会話の教科書『会話集』(ラテン語では Colloquia )。コルディエ(1479? - 1564)はスイスで活躍した教育家で、教え子には宗教改革で有名なジャン・カルヴァンがいました。この教科書は多数の版を重ね、19 世紀初頭までスイスをはじめヨーロッパの多くの学校で使用され、フランス語との対訳形式になった版や、巻末にコルディエが選んだラテン語の諺集(Sentences proverbiales)が掲載されている版も複数存在します。フランス語との対訳形式で巻末に諺集がついた版としては、1606年版(諺集は p. 601-638)、 1646 年版(諺集は p. 567-598)、 1682 年版(諺集は p. 525-530)などが Google で閲覧可能(諺の収録数やフランス語訳は版によって異なります)。
    コルディエは Sententiae proverbiales sive adagiales gallicolatinae (1547) という諺集も出していますが、こちらは現時点ではインターネット上では閲覧できないようです。
  • Gabriel Meurier, Trésor de sentences
    1568年刊。『金言宝典』。当時繁栄していたベルギーのアントウェルペン(アントワープ)で著名な学校を開いていたというガブリエル・ムーリエによる諺集。正式な書名は Trésor de sentences dorées, dicts, prouerbes & dictons communs, reduits selon l'ordre alphabetic (『アルファベット順に並べられた金言、格言、諺および俗諺の宝典』)。1568年版が初版だと思われ(Gratet-Duplessis (1847) N°44による)、以来たびたび版を重ねており、しばしば同じ著者による Bouquet de philosophie morale reduict par demandes & responces (『問答形式による道徳哲学の花束』)が抱き合わされています。この諺集に含まれる諺は 19世紀の Le Roux de Lincy (1842/1859) で多数取り上げられており、これがこの諺集が改めて脚光を浴びるきっかけになったと思われます。原文は Google, HathiTrust などで閲覧可能(どちらも 1581年版)。
  • François Goedthals, Les proverbes anciens Flamengs et François
    1568 年刊。ベルギーのアントウェルペン(アントワープ)で刊行されたフートハルス著『古くからのフラマン語とフランス語の諺』。二国語対照の諺集。初版原文が Google などで閲覧可能。
  • Étienne Pasquier, Les Recherches de la France
    1560 以降刊。エチエンヌ・パーキエ(またはエチエンヌ・パスキエ)著『フランス研究』。ピノー『フランスのことわざ』では次のように紹介されています。「詩人、司法官ならびに博言学者として、エティエンヌ・パスキエ(1529-1615)は『フランス研究』という厖大な作品に異常な努力をささげた。この著はフランスの政治、行政、文学などの歴史に関する無数の問題をとりあつかった。が、その第八部のほとんど全部を(全部で十部から成る)諺および成句の説明にささげた」(田辺訳、p.39)。原文は Google 1(1643 年版)、Google 2(1665 年版)、 Google 3(1723 版)などで閲覧可能。
  • Jean Antoine de Baïf, Mimes, enseignements et proverbes
    1576年初版刊行。プレイヤッド派の詩人の一人、ジャン=アントワーヌ・ド・バイフ(1532-1589)の格言詩『箴言、教訓と諺』。1581年に第2巻を含む増補新版が刊行され、それ以後に書き続けられたものは死後の1597年に刊行されています。題名に含まれる mime とは、もともと古代ギリシアに始まる文学ジャンルの一つ、擬曲(ものまね劇、ミモス)のこと。古代ローマのプブリリウス・シュルスは、当時は擬曲の作者兼役者として名を馳せ、格言を織り込んだ擬曲を作り、これはその後散逸したものの、その擬曲から格言だけを抜き出した『格言集』は中世を通じて学校の教科書として非常によく読まれたため、バイフの頃にはmimeという言葉は一般に「道徳的な箴言」という意味で使われていたようです(下記J. Vignes版序文pp.36-37等による)。この作品には、エラスムス『格言集』をフランス語に訳したような言葉をはじめ、多数の諺や格言が散りばめられていますが、単なる諺集ではなく、宗教戦争(1562-1598)で混乱していた当時の政治情勢に対する作者の述懐なども含まれる詩となっています。Blanchemain 版Jean Vignes 版 (一部)などがGoogleで閲覧可能。
  • Jean Le Bon, Adages français (Adages et proverbes de Solon de Voge)
    1577年頃刊。ジャン・ル・ボン『フランスの格言(ソロン・ド・ヴォージュの諺と格言)』。著者ジャン・ル・ボン(フランス国王ジャン 2 世「善良王」と同名だが無関係)は、フランス東部バシニー (Bassigny) 地方ショーモン (Chaumont) 近郊のオートルヴィル (Autreville) 生まれ(ここから「他の町」を意味する Autreville をギリシア語風にした Hétropolitain という筆名も使用)。ギーズ枢機卿のお抱え医師となるかたわら、ドイツと国境を接するロレーヌ地方ヴォージュ (Vosges) 県の著名な温泉療養地プロンビエール=レ=バンを第二の故郷とし、『プロンビエール温泉の特質の要約』 (Abrégé de la propriété des eaux de Plombières, 1576) という本も出しています(1869年に復刊、Google で閲覧可能)。ちなみに、この本には温泉の病気別の効能や、効果的な入浴方法などが記されており、モンテーニュが1580年にプロンビエールに湯治に来たのは、彼が患っていた尿管結石 (gravelle) にここの温泉が効くと、この本に書かれているのを読んだためではないかとも考えられます (Vartier (1985), p.54)。『フランスの格言』で使われている筆名「ソロン・ド・ヴォージュ」(=ヴォージュのソロン)の「ソロン」は、いわゆるギリシア七賢人の一人で、16世紀のフランスでは諺・格言の作者としてギリシア七賢人が高く評価されていた (Cf. Vignes (2005), pp.190-191) ことが背景にあると思われます。この諺集には、農事暦としての役割も果たしうる天候に関する諺に加え、他の諺集には見られないユニークな諺が多く含まれており、医者の立場からの諺(「大きな感謝も医者の財布は膨らませない」など)や、ジャン・ル・ボンが個人的な考えを述べるために作ったと思われる諺風の短文もまぎれこんでいます。この諺集に含まれる諺は 19世紀の Le Roux de Lincy (1842/1859) で多数取り上げられており、これがこの諺集が改めて脚光を浴びるきっかけになったと思われます。 Google で閲覧可能。最近、1964年に 333部限定で出版された Adages & Proverbes de Solon de Voge, Imprimerie Union, Paris, 1964 を入手しましたが、残念ながら抜粋版でした。
  • Henri Estienne, Project du livre intitulé De la precellence du langage françois
    1579 年刊。アンリ・エチエンヌ『フランス語の卓越性について』(正確には『「フランス語の卓越性について」と題する書物の草案』)。16世紀を代表する人文学者の一人であるアンリ・エチエンヌ(1528/1531-1598)は、ロベール・エチエンヌ(『羅仏辞典』の項を参照)の息子。同姓同名の祖父と区別するために「2世」つまり「二代目」を意味する「II」を入れて Henri II Estienne とも表記します。知識を愛する王アンリ3世(在位 1574-1589年)の命を受け、フランス語を「顕揚」するために書いた、文学史でも取り上げられる有名な本。フランス語の豊かさを示す例として諺が相当数取り上げられており、特に初版 pp.161-201あたりは諺のオンパレードとなっています。初版1850年版(Léon Feugère校訂)などがGoogleで閲覧可能。
  • Henri Estienne, Les prémices, ou le premier livre des proverbes épigrammatisés, ou des épigrammes proverbiales, 1593
    アンリ・エチエンヌ晩年の著作『初穂、またはエピグラムにした諺ないし諺的エピグラム』。「奇妙な題名」 (Le Roux de Lincy (1859), t.1, p.XLII) ですが、副題部分は「エピグラム(=寸鉄詩)の形を取った諺、ないし諺を織り込んだエピグラム」という意味に解され、また「初穂」(=神に捧げる最初の供物)という言葉は、おそらく古代ギリシアではエピグラムが神々への捧げ物に刻まれた詩であったことを踏まえつつ、神に関する諺が大部分を占めるこの作品を未完に近い状態で(=最初の一握りだけを)刊行することになったことを意味しているのではないかという気がします。内容は、主に末尾に諺を織り込んだ数行からなる簡潔な詩(合計243篇)と、それに対する自身による注釈で構成されており、むしろ注釈のほうが博識なアンリ・エチエンヌらしさが出ていて興味深いところ。第1部「神」、第2部「人」、第3部「生」、第4部「若さ」、第5部「老い」、第6部「死」の6つのテーマに分類されており、第1部「神」が全体の半分以上を占めています。序文には、この本を書いたのはアンリ3世から上記『フランス語の卓越性について』に含まれる諺について質問されたことがきっかけであったと書かれています。 1593年版 (Google), 1594年版 (a), (b) (Gallica) が閲覧可能。
  • César Oudin, Proverbes Espagnols traduits en Français
    1605年刊。『フランス語に訳されたスペイン語の諺』。アンリ4世(在位1589-1610)に通訳秘書として重用されたセザール・ウーダン(1560?-1625)によるスペイン語の諺集。フランス語訳が付されています。1608年版1612年版1614年版1659年版などが Google で閲覧可能。このうち 1659年版は他人の手による増補改訂版で、「フランス人は... と言う」などの注釈が追加されています。
    ちなみに、セザール・ウーダンは1614年にセルバンテスの『ドンキホーテ』(前編のみ)を初めてフランス語に訳したことでも知られています。また、西仏辞典と仏西辞典を合わせた Le tresor des deux langues espagnolle et françoise (『スペイン・フランス 二か国語宝典』)も編集しており(初版は1607年刊)、セザールの死後は息子アントワーヌが増補版を出しています(参考:Sánchez Regueira (1982) )。
  • Antoine Loysel, Institutes coustumières 
    1607 年刊。アントワーヌ・ロワゼル『慣習法提要』(institutes は「法学提要」)。アントワーヌ・ロワゼル(現代風の綴りにすると Antoine Loisel、1536-1617)は、いわゆる人文主義法学の代表者であるジャック・キュジャスの弟子で、1564 年以降は死去するまで検事総長として活躍し、「フランス法学の最初の思想家」とも目されています。当時の「慣習法」に関するフランスの諺(法諺) 919 個(1846年版の通し番号による)が収集・解説されています。「ロワゼルの『慣習法提要』は、かつては実用のために非常に有益であったが、今なお昔のフランス法の歴史を知ろうとする者にとって非常に興味深い。この本が私たちに残した多数の法諺は、幾度となく復唱され、適用されたために、法廷の中だけでなく、普通の会話においても、真に諺としての性格を獲得するに至った」(Gratet-Duplessis (1847) N°261)と評されています。最初は全1巻だったのが、版を重ねるうちに他人の手によって索引や注釈がつけられ、全2巻になっています。全1巻:1607版1608版(以上 Gallica)、1611年版1656年版1679年版。全2巻:1710年版第1巻同第2巻1783年版第1巻同第2巻1846年版第1巻同第2巻(以上 Google)。
  • Janus Gruterus, Florilegium ethico politicum
    1610 年フランクフルト刊。オランダ出身で、主にドイツで活躍した文献学者・歴史学者ヤヌス・グルテルス(1560-1627、仏語表記 Jean Gruter)の『詞華選』。古代ローマのプブリリウス・シュルスやセネカなどのラテン語とギリシア語の格言を集めて注釈をつけ、巻末に当時の各国語の諺を集めたもの。Gratet-Duplessis (1847) N°16によると、1610年版、1611年版、1612年版が存在し、巻末の各国語の諺の構成は次のとおり。
     1610年版:ドイツ、ベルギー、イタリア、フランス、スペイン
     1611年版:ドイツ、ベルギー、イギリス、イタリア、フランス
     1612年版:ドイツ、ベルギー、フランス、イタリア
    このうち、1610年版の「スペインの諺」の部は Oudin (1605) によるフランス語訳が付されています。
    「フランスの諺」の部は、Jean Gilles de Noyers の諺集をベースにしたと思われ、初版(1610年版)では pp.182-261 の計80ページだったのが、1611年版では pp.353-471 の計119ページとなっています。Googleで1610 年版(a)1610 年版(b)1610 年版(c)1611 年版が閲覧可能。
  • Daniel Martin, Proverbia, Sententiae
    1625 年ストラスブール刊。フランス語の文法書や、独仏語併記の会話集なども出しているダニエル・マルタンによるフランス語の諺集。相当するドイツ語の諺がある場合は併記されています。初版が Google などで閲覧可能。
  • Gonzalo Correas, Vocabulario de refranes y frases proverbiales, 1627
    スペインの文法家ゴンサロ・コレアス(1571-1631)が 17世紀初めのスペインで話されていたことわざをそのままの形で集め、書きとめたことわざ集。言語学的・民俗学的にも貴重な資料とされています。長らく草稿の状態だったものが、1906年に編集・刊行されています(InternetArchiveで閲覧可能)。より厳密な校定本は 1967年に Louis Combet が刊行し、さらにそれをもとに 2000年に Rober Jammes が刊行しています。
    Cf. André Gallego-Barnés, « Les proverbes en Espagnes », in La parole exemplaire (2012), pp.302-303
  • Antoine Oudin, Curiositez françoises
    1640, 1656 年刊。『フランス奇言集』。上のセザール・ウーダンの息子で、ルイ 13 世(在位 1610-1643)とルイ 14 世(在位 1643-1715)に通訳・イタリア語教師として仕えたアントワーヌ・ウーダン(1653 年没)による諺集。原文は Gallica (1640)、 Google 1 (1656)、 Google 2 (1656)などで閲覧可能。
  • Isaac de Benserade, Le ballet des proverbes, 1654
    イザーク・ド・バンスラード『諺のバレエ』。わずか4才で即位したルイ14世(1638年9月5日生)は熱心なバレエの愛好家で、宮廷で側近を集めてみずから役を演じ、たとえば1653年2月23日には14才半のときに『夜のバレエ』で昇る太陽の役を演じたために、のちに「太陽王」と呼ばれることになりますが、その1年後、1654年2月17日に15才半のときに踊ったのが『諺のバレエ』。合計24の諺のタイトルと配役ぐらいしか記録に残っておらず、実際にどのように演じられたのかは不明ですが、多分に即興的なものであったと想像されます。王は、たとえば冒頭の諺「良い評判は金の帯にまさる」では「良い評判」の役を演じ、また「勇敢な者には短い剣」という諺では「攻撃者」の役に扮したと記されています。台本は Les illustres proverbes... (1655) (Bellingen を剽窃した本)の付録に収められており(Google で閲覧可能)、またバンスラードの作品集 (1697) にも収められています(Gallicaで閲覧可能)。
  • Fleury de Bellingen, L'étymologie ou explication des proverbes françois, 1656
    フルリー・ド・ベランジャン『フランスの諺の語源ないし説明』。「広大な知識をもつコスム(宇宙、世界)」と「サンプリシヤン(単純な男)」との対話形式になっており、「サンプリシヤンが奇妙な表現で味をつけた自分の身の上話の一片を提供すると、コスムがそれに註釈をほどこす」(ピノー『フランスのことわざ』 p.43)という形を取りながら、諺にユニークな解釈が施されています。初版が Google などで閲覧可能。もとは 1653 年に出版された Premiers essais de proverbes という本を大幅に充実させ、題名も改めて出した本のようです(Gratet-Duplessis (1847) N°282 による)。
    この本を「剽窃」 (Ibid.) して「コスム」と「サンプリシヤン」を「哲学者」と「百姓」に置き換えた Les illustres proverbes historiques, ou Recueil de diverses questions curieuses, pour se divertir agréablement dans les compagnies という本が出ており(1655版1657版、いずれも Google。ただし Google で後者の著者名を Adrien de Montluc に帰しているのは全くの誤り)、これについては Nodier (1829) で取り上げられています。
  • Port-Royal, Epigrammatum delectus, 1659
    ポール・ロワイヤル編『エピグラム選集』(エピグラムとは古代ギリシアの碑銘に端を発する簡潔な「寸鉄詩」のこと)。パスカルも輩出したポール・ロワイヤルに属するピエール・ニコル(Pierre Nicole)が中心となって編纂したと考えられ (*)、主にラテン語で書かれています。巻末には短いギリシア語・ラテン語の格言が集められ、さらにそのあとに「フランス語に訳された、スペインとイタリアの著名な作家および日常会話から抜粋された、短い格言と意味に満ちた諺」と題する付録がついており、スペイン語は345個、イタリア語は129個の諺が仏訳とともに収められています(pp.539-590)。初版 (a) ; (b) などが Google で閲覧可能。
    (*) Cf. Jean Mesnard, « L'"Epigrammatum delectus" de Port-Royal et ses annexes (1659) : problèmes d'attribution », in Ouverture et dialogue, 1988, pp.305-318
  • Les proverbes divertissans du sieur Julliani, 1659
    『ジュリアーニ氏の楽しめる諺』。序文によると、前年に出したイタリア語の文法書に続き、このたび、ためになると同時に楽しめる本(第1部=仏伊西の3か国対照の単語集、第2部=フランス語・イタリア語の2か国対照の諺集、第3部=対話集、第4部=小話集)を出すことにした、と書かれています。この第2部に相当する全111ページの小冊子。Google で閲覧可能。
  • James Howell, Paroimiographia. Proverbs, or Old Sayed Sawes & Adages, 1659
    ジェームズ・ハウエル『ことわざ誌、ことわざまたは古くからの言い習わしと格言』。イギリス人ジェームズ・ハウエル(c.1594-1666)による英伊仏西の各国語のことわざ集(英語以外の言語については英訳との対訳形式)。この本(1659年の初版)自体はインターネットでは閲覧できませんが、実は翌年に同じ著者が出した『英仏伊西四か国語辞典』 James Howell, Lexicon Tetraglotton, an English-French-Italian-Spanish Dictionary, 1660 (Google) に付録の形でまるまる一冊併録されており、こちらは閲覧可能(PDF形式でダウンロードした場合のpp.617-833に相当する部分)。
  • Jacques Lagniet, Recueil des plus illustres proverbes
    1657-1663年頃に版画家ジャック・ラニエが描いた、諺をテーマとした版画集『著名な諺選集』。表紙には次のように書かれています。「著名な諺選集 三部構成、第1部「道徳的な諺」、第2部「楽しい愉快な諺」、第3部「諺に見る下層民の生活」、作者 ジャック・ラニエ、〔住所〕パリ、メジスリー河岸、フォール・レヴェック(司教の城砦)」。(ちなみに「メジスリー河岸」はパリ中心部、セーヌ川を挟んでシテ島の向かい側。「司教の城砦」はパリ司教の裁判権のもとに置かれていた牢獄で、19世紀初頭に取り壊されたようです)。実際には、表紙には記載がないのに第4部として「ティル・オイレンシュピーゲルの生涯」が追加され、諺とは関係のない図版も混じっています。「完全なコレクションが全部で何点の図版ないし紙葉で構成されるのかは、今のところ誰にも確かなことは言えない」(Gratet-Duplessis (1847) p.177)と指摘されているとおり、この本は版によって収録されている図版の総数や順序が異なり、フランス国立図書館所蔵本には約 300枚、 Internet Archive 版には約 200枚の図版が収められています。ラニエは『ドン・キホーテ』を描いた版画でも知られ、1650年以降はパリに居を構え、1675年に没するまで版画商としても活躍したようです。第2部15枚目の右下に「1657」と記載されており(BNF版 / IA版)、第4部の最初のページには「1663」と記載されているので(BNF版 / IA版)、この間ないしその前後あたりに描かれたと推定することができます。17世紀パリの風俗を知る貴重な資料ともなっています。
  • John Ray, A Collection of English Proverbs, Cambridge
    1670年に初版が出た、イギリスの博物学者ジョン・レイ(1627-1705)による『英語ことわざ集』。ことわざによっては、ある程度詳しい解説が付されています。フランスに由来することわざについては、場合によってはフランス語が併記されていますが、1611年のコットグレーヴの仏英辞典に収められているのと同じ形で収録されているケースが目立つので、おそらくジョン・レイはこれを参照しているはずです。1678年の第2版では序文が差し替えられ、付録にヘブライ語のことわざが追加されています。初版(1670年版)第2版(1678年版)、死後の 1737年版1818年版などがGoogle で閲覧可能。
    なお、Henry G. Bohn, Handbook of Proverbs (1855) は、このジョン・レイの本に総索引を付し、この索引の中にボーンが採取したことわざを多数組み込んでできた本。
  • Jacques Moisant de Brieux, Les origines de quelques coutumes anciennes, et de plusieurs façons de parler triviales
    1672 年刊。17 世紀の詩人ジャック・モワザン・ド・ブリウー(1611-1674)の『いくつかの古い風習および多くの些末な言い廻しの起源』。成句表現や諺などの由来について書かれた本。初版が Google などで閲覧可能。
  • Giacomo du Bois de Gomicourt, Sentenze, e proverbij italiani
    1683 年にリヨンで刊行されたイタリア語→フランス語対訳の諺辞典。初版原文は Google (a), Google (b) などで閲覧可能。
  • Dominique Bouhours, La Manière de bien penser dans les ouvrages d'esprit, 1687
    ドミニク・ブウール『精神の営為において良く考える方法』。ブウール (1628-1702) はイエズス会に属するフランス人の司祭で、近代的な「美しい」フランス語の基礎を築いたヴォージュラ (1585-1650) の後継者として一世を風靡した文法家。悲劇作家ラシーヌも書き上げた作品を送って字句の修正を依頼しているほどです。この『良く考える方法』は二人の登場人物が議論を戦わせる対話形式の本(原文は1687年の初版が Gallica、翌1688年の第2版が Google 等で閲覧可能)。この中に有名な次の一節が出てきます。
    • Les sentences sont les proverbes des honnêtes gens, comme les proverbes sont les sentences du peuple.
      (ことわざが庶民の格言であるように、格言は宮廷人のことわざである)

この背景には、当時は宮廷で話される洗練された美しいフランス語と田舎の人々が話す卑俗なフランス語との差が広がりつつあり、ことわざは後者に属するものとして宮廷人からは軽視・排斥されていたという事情があります。この言葉は、18世紀を代表する国語辞典兼百科辞典『トレヴーの辞典』のproverbe(ことわざ)の項で引用されたことで有名になり、19世紀のことわざの本でもよく引用されています。明治期の藤井乙男『俗諺論』に「ゼシュイット僧ブフウルが『諺は庶民の文語のみ』といへるが如き」という一節がありますが、これは上のブウールの言葉を指しています。

  • John Mapletoft, Select proverbs
    1707 年刊。イギリス人ジョン・メープルトフト(1631–1721)の『厳選ことわざ集』。ヨーロッパ各国語の諺を集め、英語訳をつけた本。フランス語の諺は 81~100 ページに記載されています。フランス語に関しては、ざっと見た限りではコットグレーヴの仏英辞典に含まれる諺がかなり収録されているようです。初版原文は Google で閲覧可能。
  • Georges De Backer, Dictionnaire des proverbes françois
    1710 年刊。ベルギー人による『フランス諺辞典』。現代でもよく見かける、キーワードをアルファベット順に並べた構成を取り、多くの諺に意味が記載されています。諺の定義は仏仏辞典 Furetière / Trévoux をそのまま借用しているケースが目立ちます。Google などで閲覧可能。
  • Philibert-Joseph Le Roux, Dictionnaire comique, satyrique, critique, burlesque, libre et proverbial
    1718 年に初版が刊行されたフィリベール=ジョゼフ・ル・ルー著の諺辞典。この作者については「アムステルダムに亡命し、その地で死んだこと以外は、ほとんど何も知られていない。確実な日付は、アムステルダムでこの辞書が最初に刊行された 1718 年という年だけである」(Y. Giraud (1983), p.72)。つまり生没年も不明です。18 世紀を通じて多数の版が出ており、主な版は以下のとおり。このうち 1735 年版は本人が増補改訂を行い、それ以降は他人が手を入れたと考えられます。仏仏辞典 Furetière / Trévoux と類似している部分が多いようです。
      1718 年版(初版)(540ページ)
      1735 年版(668ページ)
      1752 年版 第 1 巻同第 2 巻(約378 p. + 292 p.)
      1786 年版 第 1 巻同第 2 巻(612 + 606 p.)
  • André Joseph Panckoucke, Dictionnaire des proverbes françois
    1748 年刊。アンドレ=ジョゼフ・パンクーク(息子は『百科全書』の編纂に関わったシャルル=ジョゼフ・パンクーク)による『フランス諺辞典』。表紙には著者名として J. P. L. N. D. L. E. F.(「フランドル地方リール生まれの本屋ジョゼフ・パンクーク」の頭文字)と書かれています。「この本は独創的な著作というよりも、1710年に G. de Backer がブリュッセルで出版した『諺辞典』の増補改訂版である」(Gratet-Duplessis (1847) N°313)と評されていますが、Le Roux ともよく似ており、丸写ししたと思われる箇所が少なくありません。しかし二人の名を出していないために、「恥知らずにも Le Roux と De Backer から盗作している」(Y. Giraud (1983), p.72, note 9)と不名誉な評価を受けています。1748年版1749年版1758年版(Google)が閲覧可能。
  • Dictionnaire des proverbes danois, traduits en français
    1757年コペンハーゲン刊。『フランス語に訳されたデンマークの諺の辞典』。デンマーク語の諺を集め、フランス語の対訳をつけた本。原文はGoogle で閲覧可能。
  • Benjamin Franklin, The way to wealth, 1757
    ベンジャミン・フランクリン「富に至る道」。フランクリン (1706-1790) は 100ドル紙幣に肖像が使われている「アメリカ建国の父」の一人。印刷業者として出発したフランクリンが26才のとき(1732年)に出版した『貧しいリチャードの暦』 (Poor Richard's Almanack) は大きな反響を呼び、以後毎年暦を発行することになりますが、25年目の節目となる1757年(51才のとき)に、それまで暦に載せていたことわざを集めて「一つの筋の通った話」に仕立て、翌1758年向けの暦に載せたのがこの「富に至る道」(松本慎一・西川正身訳『フランクリン自伝』岩波文庫の付録に収録)。十数ページ前後の小品で、ある老人が聴衆を前にして『貧しいリチャードの暦』の中から主に勤勉と節約を説いたことわざを紹介するという形式を取っており、数えてみるとちょうど約 100のことわざが埋め込まれています。そのうち、「私自身が考え出したのはその十分の一もなく、他はすべて古今東西の名言を適当に拾い集めてきたにすぎない」(同書p.291)と書かれているとおり、なかにはフランス起源と思われることわざも混じっています。『自伝』の中で「フランスでは翻訳が二通り出て」(同書p.156)と書かれているように、「富に至る道」は生前に2種類の仏訳が出ています。1番目は、フランスにおけるフランクリンの最初の熱烈な支持者の一人だったジャック・バルブー=デュブール (Jacques Barbeu-Dubourg) による訳(岩波文庫『フランクリンの手紙』蕗澤忠枝訳では「バービュー・デューブール」と表記)。政治的にアメリカ独立運動に深く関与すると同時に、科学者でもあったバルブー=デュブールは、科学用語についてフランクリンと手紙をやりとりしながら仏訳を進め、1773年に2巻本のフランクリン作品集を刊行しています(第1巻 (a), (b) ; 第2巻 などがGoogleで閲覧可能)。「富に至る道」は、この第2巻 pp.171-181で « Le moyen de s'enrichir » (「裕福になる方法」)という題で仏訳されています。ただし、手紙を主体とした浩瀚な作品集の中に埋め込まれていたためか、この訳は一般にはほとんど注目されなかったようです(それはこの仏語のタイトルが浸透しなかったことからも窺われます)。その3年後の 1776年(70才)、フランクリンは「アメリカ独立宣言」の起草に参加し、ついで宗主国イギリスに対抗してフランスの支持を取りつけるために使節団を率いてパリにやってきますが、ちょうどフランクリンが精力的に外交活動を展開していた最中の翌 1777年に Science du bonhomme Richard (『善人リシャールの知恵』)というタイトルで単行本として(他の小品と抱き合わせて)出版された 2番目の仏訳(Quétant 訳)は大きな反響を呼びます。この『善人リシャールの知恵』は多くの版を重ね、この頃だけでも Ruault, Paris, 1777 [Google]; 同 1778 (3e éd.) [G]; [G]; Jean-Francois Bastien, Paris, 1778 (4e éd.) [Internet Archive]; François Grasset & Comp., Lausanne, 1778 [G]; 同 1779 [G] などが出ています。自由と独立を説くフランクリンはフランスの民衆に熱狂的に受け入れられ、彼が焚きつけた独立の気運は、やがてフランクリンの死の1年前に勃発したフランス革命の遠因の一つともなり、革命中に死去した際にはミラボーの発案でフランス初となる国喪の扱いを受けたほど、ヴォルテールらと並ぶフランス革命の精神的支柱の一人として崇敬されます。それと並んで「富に至る道」もよく読まれ、革命初期にはブルトン語(北西部フランス方言)訳まで出ています(*)。その後も19世紀前半を通じて非常によく読まれたようで、もともとフランスにあったことわざまでもが「フランクリンの言葉」として紹介されるという皮肉な現象も起きていたことが、当時のフランスのことわざ関連の本を見ると確認されます。
    (*) Cf. Jacques Gury, « La Franklinomanie », Annales de Bretagne et des pays de l'Ouest, 1977, Vol.84, No 84-3, pp.257-263
  • Jean Charles François Tuet, Matinées sénonoises ou proverbes françois, Née de La Rochelle, Paris ; Vve tarbé, Sens, 1789
    ジャン=シャルル=フランソワ・チュエ『サンスの朝、またはフランスの諺』。チュエ神父は1742年生まれで、サンス(パリ南西120kmで大聖堂がある)の学校で古典学の教師をしていたようです(ケラール書誌辞典第9巻 p.574による)。くしくもフランス革命勃発と同じ1789年に出版されたこの『サンスの朝』は、おそらく近代的な「諺学」の黎明を告げる画期的な本と言うことができ、19世紀以降の多くの諺研究家に直接・間接的な影響を与えたと推測されます。変わった題名については、序文の中で、「この本はサンスで書かれ、健康上の理由から私は朝しか仕事ができなくなったから」だと書かれています(ローマの古典『アッティカ夜話』などを連想させる題名ですが、「夜話」とは言っても「朝話」とはなかなか言わないので、『サンス朝話』とは訳しにくいのが残念)。Gallica, Googleで初版が閲覧可能。
  • Jean Pierre Louis de Beauclair, Cours de Gallicismes
    1794-5 年刊。ジャン・ピエール・ルイ・ド・ボークレール『ガリシスム講義』。フランス語の熟語表現や諺の意味、あるいは言葉の用法などをアルファベット順に記した本(全 2 巻)。第 1 巻(1794)第 2 巻(1795)が Google などで閲覧可能。
    ボークレールは、J.-J. ルソーの『社会契約論』(1762)に対して『反社会契約論』(Anti-contract Social, 1764)なども著しています。
  • D'Humières, Recueil de proverbes français, latins, espagnols, italiens, allemands, hollandais, juifs, américains, russes, turcs, etc
    デュミエール『フランス、ラテン、スペイン、イタリア、ドイツ、オランダ、ユダヤ、アメリカ、ロシア、トルコ等の諺集』。副題に「公立学校および教育施設で使用するため」と書かれた、全72ページのテーマ別の諺集。古いと思われる版の表紙には刊年の記載がなく、正確な初版の刊年は不明ですが、18世紀終わり頃だと考えられます。作者名も、表紙には「Cen D'H」(Cen は Citoyen の略で、フランス革命期に Monsieur などの代わりに用いられた「市民、同志」という意味の敬称)と書かれているだけで不明ですが、「D'H」は D'Humières の略だと考えられます(ケラール書誌辞典等による)。刊年不明の版は Google (a) ; (b) などで閲覧可能(ただし Googleの書誌情報に記載されている著者名は同姓の duc(公爵)の爵位を持つ別人で、1790年という刊年もおそらく根拠なし)。刊年が記載された版としては、1801年版が Internet Archive で閲覧可能(Lengert (1999), N°145 ではおそらくこれに拠って 1801年刊としています)。
    なお、この本の「第2版」がRecueil de proverbes de différents peuples, A Valence, Chez L. Borel, 1829 [Google] のようです(書名が異なり、著者名も記載されていませんが、副題が同じで(ほぼ)同内容のため)。
  • Charles-Louis D'Hautel, Dictionnaire du bas-langage
    1808 年刊。出版者の一人シャルル=ルイ・ドテルが書いたとされる俗語辞典。成句や諺などが集められ、すべて意味が説明されています。全 2 巻。第 1 巻(A-F)は Gallica, Google、第 2 巻(G-Z)は Google などで閲覧可能。
  • Pierre-Antoine Leboux de La Mésangère, Dictionnaire des proverbes français, Treuttel et Würtz, Paris, 1821
    1821 年に初版が出たピエール=アントワーヌ・ルブー・ド・ラ・メザンジェール(1761-1831)の『フランス諺辞典』。初版(1821年)は418ページ(Google)、第3版(1823年)は大幅に増補されて756ページ(同 (a) , (b))。
  • M. C. de Méry, Histoire générale des proverbes...
    1828 刊。『諺の総合史』。古今東西の諺を国別・テーマ別・作家別に分類し、注釈をつけ、諺にまつわるエピソードなどを紹介した本。Google (第 1 巻), (第 2 巻), (第 3 巻) などで閲覧可能。
  • Charles Nodier, Mélanges tirés d'une petite bibliothèque, 1829
    シャルル・ノディエ『小さな図書館からの雑録』。ロマン主義の幻想文学の小説家として知られるノディエは、同時にアルスナル図書館で司書を務め、稀覯本を手に取る機会に恵まれていたために、そうした珍しい書物について書かれたのがこの本。 pp.128-132 でLes illustres proverbes... (1655) (Bellingen を剽窃した本)などのことわざの本が数冊取り上げられています。初版が Google (a), (b), IA などで閲覧可能。
  • Joseph-Marie Quérard, La France littéraire ou dictionnaire bibliographique, 1827-1839
    ジョセブ=マリー・ケラール(1797-1865)による全10巻(本編)のフランス書誌辞典。長い題名を直訳すると、『文学的フランス、または特に18世紀と19世紀のフランスの学者、歴史家および作家ならびにフランス語で書いた外国の文学者についての書誌辞典』。アルファベット順に並べられた作家について、簡単な経歴と詳細な書誌情報が記載されており、特にマイナーな作家についての情報が充実しています。 Gallica などで閲覧可能。第11巻 筆名作家・韜晦者編 (1854) (Gallica), (Google) も貴重。
  • Louis Viardot, « Les proverbes espagnols », in Revue de la Côte-d'Or et de l'ancienne Bourgogne, 1er vol., 1836, pp.219-224, 291-295
    ルイ・ヴィアルド編訳「スペインの諺」。『ドン・キホーテ』の著名なフランス語訳を残したことでも知られるヴィアルドが仏訳した、合計 147個の短いスペインの諺集。序文では、「諺の最良の定義」として「長い経験から引き出された短い箴言」というセルバンテスの言葉を引用し、またケベドが「(諺とは)小さな福音書(である)」と述べて諺の教訓が信じるに足るものであることを示そうとしたことを紹介しつつ、スペイン人ほど「頻繁にこれらの民衆の知恵による神託を用いる国民は存在せず、諺の古さによっても数によっても洗練性によっても、スペイン人は類を見ない」と述べています。 Google で閲覧可能。ここに含まれる諺のいくつかは「サンチョ・パンサの孫」でも使われています。
  • Louis Viardot, « Le Petit-fils de Sancho Panza » in Babel Société des gens de lettres, t.1, Paris, 1840, pp.1-56
    ルイ・ヴィアルド「サンチョ・パンサの孫」。原作はセルバンテスの短編小説「ガラスの学士」。頭のよい主人公が媚薬を飲まされて死にかけ、一命をとりとめたものの、「自分はガラスでできている」という妄想に取りつかれてしまい、しかし同時にガラスのように明晰な知性を発揮したために、民衆にもてはやされるという話。民衆からの質問に対する主人公の才気煥発な受け答えが大きな見どころとなっており、セルバンテスの原文では、スペイン語の駄洒落・語呂合わせが多用されていますが、興ざめな注釈抜きでは翻訳不可能ということで、ヴィアルドはこの話の枠組みだけを忠実に訳し、受け答え部分はそっくり差し替え、質問への答えとして主人公が諺を並べ立てるというふうに趣向を変更しています。諺を連発してサンチョ・パンサみたいなので、題名まで「サンチョ・パンサの孫」に変えており、もはや翻訳というよりも「翻案」と呼ぶべき作品になっています。『ドン・キホーテ』の名高い仏訳も出しているヴィアルドは、スペインの諺への造詣も深く、諺が羅列された部分は、さながら「仏訳 スペイン語諺集」のような趣きとなっています。Internet Archive, Google などで閲覧可能。この作品がグランヴィル他『百の諺』に与えた影響については大橋 (2015) で明らかにされています。
  • Honoré Daumier, « Proverbes et Maximes » (suite de 12 pièces lithographiées), Le Charivari, du 21 juin au 20 octobre 1840
    19世紀を代表する諷刺画家オノレ・ドーミエが日刊紙「シャリバリ」に発表した「ことわざと格言」と題される 12 枚の連作のリトグラフ(石版画)。オノレ・ドーミエ「ことわざと格言」のページで取り上げています。
  • Honoré de Balzac, Pensées sujets, fragmens, Paris, Blaizot, 1910
    1830~1847年にかけて小説家オノレ・ド・バルザック(1799-1850)が構想や短文などを書き留めた手帳「考え、テーマ、断章」(この題はバルザック本人による)を1910年になって活字化・刊行した本で、言葉遊びに単なる言葉遊びをはるかに超えた価値を見出していたシュールレアリストたちにも影響を与えています。 このバルザックの手帳では、諺をもじった表現が100個近く集められており、そのうちのいくつかはバルザックの小説『人生の門出』でも使われています。 Internet Archive で閲覧可能。
  • Honoré de Balzac, Un début dans la vie, 1842
    バルザックの小説『人生の門出』。諺をもじった表現が登場人物の口から連発されるので有名な作品。作品末尾に1842年2月の日付が書き込まれています。日本語訳である島田実訳『人生の門出』(バルザック全集第22巻、東京創元社、1973)の解説によると、「ことわざの洒落は33箇所あるが、初稿からあるのはその中の5箇所にすぎず、二校の際の書きこみが2個のほかはその大部分にあたる23個までは1845年のフェルヌ版で追加されたものである。しかもバルザックが他日の重版にそなえて書きこみをしていた私家版にも更に3個のことわざのもじりがつけ加えられている」。この日本語訳では、「『金の切れ目が絵の切れ目っていうからな』とちんぴら絵描きが言った」(同書p.221)、「命あっての物真似ですわ」(同書p.226)など、うまく訳されています。この『人生の門出』は、バルザック作品における諺について考察した Fernando Navarro Dominguez, Analyse du discours et des proverbes chez Balzac, 2000 でも主要な分析対象として取り上げられています。  ⇒ amazon
  • Antoine Le Roux de Lincy, Le Livre des proverbes français
    1842, 1859年刊。『フランスの諺の本』。中世専門の書誌学者(bibliographe)アントワーヌ・ル・ルー・ド・ランシー(1806-1869)による諺集。Jean Le Bon (1577), Meurier (1568), Gruter (1610) などの昔の諺集から抜粋した諺がテーマ別に並べられており、長らく顧みられていなかった古い諺がここで復活したともいえそうです。諺が中世のどの作品に出てくるかについての記述にも詳しく、参考になります。第2版(1859年版)の第2巻付録には中世の諺を記した写本が活字化されており、これも貴重。このル・ルー・ド・ランシーの本は、初版が同じ1842年に出た次のキタールの本と並んで、19世紀における諺の復権という点で重要な役割を果たしており、たとえばグランヴィル他『百の諺』にも大きな影響を与えています(Cf. 大橋 (2015))。また、文献学的な厳密さからリトレの辞典でもそのまま引用されており、さらに現代でも「今なお不可欠な」(Vignes (2005), p.186)本と評されています。初版(1842年、第1巻 259 p. + 第2巻 422 p.)は t. 1 + 2 (1842)t. 2 (1842) などで閲覧可能。第2版(1859年、619 p.)は t. 1 (1859)t. 2 (1859) などで閲覧可能(いずれも Google)。
  • Pierre-Marie Quitard, Dictionnaire étymologique, historique et anecdotique des proverbes, P. Bertand, Paris ; Vve Levrault, Strasbourg, 1842
    ピエール=マリー・キタール著『諺の語源的、歴史的および逸話的辞典』。19世紀に刊行された中で最も大きな影響を与えてきた諺辞典といっても過言ではありません。
    著者ピエール=マリー・キタールは、フランス革命勃発の3年後の1792年、南仏アヴェロン Aveyron 県ヴァーブル Vabre 生まれ。ナポレオン戦争の真っただ中の1811年、19才にして軍隊に入るも、スペインで重傷を負って除隊となり、学業に復帰、1820年代にはヨーロッパ各地を旅し、各国語を学ぶかたわら図書館をめぐり、文献学と言語学の著作のための資料を集め、1827年にパリに戻ります(以上はケラール書誌辞典第11巻 p.616-617による)。この頃から、諺に関する文章を言語学関係の複数の雑誌に多数寄稿しており、これが本書を筆頭とするキタールのいわば「諺三部作」(他の2作は1860年と1861年刊)のもとになったことが確認されます。
    さて、本書は、キタールの博覧強記によって古い本から引用した逸話の紹介を織り交ぜ、随筆風の読み物に仕立てたことわざ辞典で、この後に出たフランスと日本の諺に関する本に多大な影響を与えています。キタールの論拠を検証せずに、この本をそのまま引用したり、訳しただけのような諺辞典も少なからず存在します。
    しかし、厳密な学問研究という立場からすると、キタールの書いたことを鵜呑みにするわけにはいかないようです。たとえばロベールの表現辞典の序文では次のように評されています。「とりわけキタールの研究は、19世紀にはピエール・ラルース〔注記:『十九世紀ラルース』のこと〕によって、最近ではモーリス・ラ〔注記:ラルース『表現成句辞典』のこと〕によって引き継がれているが、難解な表現を論理的に正当化するために事実に反することをあげつらい、確たる証拠もなくギリシア、ラテン、中世または異国の逸話をでっち上げている」Rey/Chantreau (2007), p.XV)。同様にデュヌトンは次のように評しています。「実証主義の敵を公言してはばからないキタールは、どこで見つけたのかわからない逸話をあまり吟味せずに集め、聖書や神話に関して、確かな根拠に基づくというよりもむしろ多くの場合『ロマン主義的』な論述を長々と展開する。実を言うとピエール=マリー・キタールは、民衆の『伝統的な知恵』の威厳を高めるという、たしかに称賛すべきかもしれないがほとんど学問的とは呼べない目的のために、かなりの数の『歴史的な』引用や、さらには『古いディクトン』のいくつかを自分で作り出したのではないかと思われるふしが多分にある」(Duneton (1990), p.34)。とすると、どこまでが「学問的」で、どこまでが「ロマン主義的」なのかを突き止める必要がありそうです。キタールのこの本は Gallica ; Google (a), (b) ; Internet Archive などで閲覧可能。(2015/5/20加筆)
  • Grandville (illustration), Cent Proverbes, 1845
    グランヴィル他『百の諺』。初版は1845年刊(1844年4月~11月に50回に分けて定期購読者に配布し、翌年に本として刊行)。主に末尾が諺で終わる小話50話と、ページ全面を使った「別丁」の版画50枚(そのほかに小話に対応した小さな挿絵などを含む)で構成され、合計100の諺が取り上げられています(『百の諺』のことわざリストを参照)。絵を描いたのは、人間の頭部だけを動物に付け替えた絵を描くことで有名な諷刺画家グランヴィル(本名ジャン=イニャス=イジドール・ジェラール Jean-Ignace-Isidore Gérard, 1803-1847)。小話の著者は、表紙の記載によれば trois têtes dans un bonnet (「一つの縁なし帽に三つの頭」、つまり「一心同体の三人組」または「同じ穴のむじな」を意味する成句表現)。もちろんペンネームで、ずいぶん人を喰った本ですが、実際には Paul-Émile Daurand-Forgues (dit Old Nick), Taxile Delord, Arnould Frémy, Amédée Achard の4人が書いたようです(ケラール書誌辞典第11巻 pp.1, 148, 149等による)。この4人の作家は力量にばらつきがあり、文学性という点では玉石混淆の出来となっています。小話の多くは短い物語風ですが、なかには「私」を主人公にした短編小説もあり、また劇の形を取ったものもあります。初版ではすべての版画・挿絵が白黒だったのが、1860年代(グランヴィルの死後)に出た増補改訂版では、別丁の版画は綺麗に着色され、またこの別丁版画の諺に関しては新たに諺研究の第一人者キタールが解説を書いています(Quitard (1842), (1860), (1861) からの抜粋またはアレンジと、新たに書き下ろした文章からなる)。初版は Gallica, Interner Archive, Google (a), 同 (b), 同 (c), Wikisource (挿絵)、増補改訂版は Gallica, Interner Archive などで閲覧可能。
    版画・挿絵の一部は「グランヴィル」のページで取り上げています。
    参考論文:大橋尚泰「グランヴィル他『百のことわざ』に込められた意図 - 100のことわざの由来調査と後世への影響」、ことわざ学会編「ことわざ」第7号、2015年、pp.27-40 ⇒ Résumé
  • Pierre-Alexandre Gratet-Duplessis, Bibliographie parémiologique
    1847年刊。ピエール=アレクサンドル・グラテ=デュプレシ著『諺学書誌』。著者の正確な姓はグラテ=デュプレシ (Gratet-Duplessis) ですが、単にデュプレシ氏 (M. Duplessis) と呼ばれることが多かったようです。1853年に没したときには19世紀を代表する批評家サント=ブーヴが哀悼の文章を寄せています(『月曜閑談』 Causeries du lundi, t. 9, Appendice, pp.515-517所収)。それによると、グラテ=デュプレシは1792年北仏ウール=エ=ロワール (Eure-et-Loir) 県ジャンヴィル (Janville) 生まれ。教職を経てドゥーエ (Douai) 大学区長を務めたのち、1842年に退職しています。サント=ブーヴによると、デュプレシは古代ギリシア・ラテン語に通暁し、ほとんどすべての近代諸語について正確な知識を持ち、本当の意味での書物の愛好家で、忘れられていた多くの書物の復刊に尽力しつつ、名誉欲がなかったために自分が発掘したと声高に叫ぶことがなく、序文も G. D. というイニシャルを記すにとどめ、小さな選集ではイレール・ル・ゲ (Hilaire le Gai) という筆名を用いることが多かったようです。この『諺学書誌』は、古来の諺集や諺に関する本についての文献学的な著作で、サント=ブーヴによるとデュプレシが最も遺憾なくその知識を発揮した本。 Google で閲覧可能。ちなみに、これが「諺学」 (parémiologie) という言葉のほとんど最初の用例だと思われます (Cf. Viellard (2005), p.183)。
  • Pierre-Alexandre Gratet-Duplessis, La Fleur des proverbes français
    1851年刊。ピエール=アレクサンドル・グラテ=デュプレシ著『フランスの諺の精華』。詳しい解説が付されたフランスのことわざ集。4年前にデュプレシが労作『諺学書誌』を書き上げる中から生まれたもので、1848年のフランス二月革命によって古い価値観が捨てられていく中で、それでも古き良き考え方を大切にしたいという思いからこのことわざ集は作られたと、デュプレシと親交のあったプルーは追悼の文章の中で述べています (M. Preux, « Notice nécrologique de M. Gratet-Duplessis », Mémoires de la société impériale d'agriculture, sciences et arts de Douai, deuxième série, tome II (1852-1853), Douai, 1854, pp.311-327)。 1851年版1853年版が Googleで閲覧可能。
  • Pierre-Alexandre Gratet-Duplessis, Petite encyclopédie des proverbes français, 1852
    1852年刊。ピエール=アレクサンドル・グラテ=デュプレシ著『フランスことわざ小百科辞典』。イレール・ル・ゲ (Hilaire le Gai) という筆名で出された、解説つきのことわざ集(Cf. Lengert (1999), N°1095)。1852年版1860年版が Googleで閲覧可能。

なお、以上の 3冊(とくに後の二冊)は、誤ってピエール=アレクサンドルの息子で歴史学者のジョルジュ・デュプレシ Georges Duplessis の著とされることがあります。ピエール=アレクサンドル・グラテ=デュプレシは、しばしば姓の前半の Gratet を G. と略し、G. Duplessis と署名することがあり、これが息子の Georges Duplessis と混同される要因となっているようですが、この 3冊がいずれも息子ジョルジュではなく父親ピエール=アレクサンドルの著であることは、上記プルー (Preux) にも明記されています。

  • Richard Chenevix Trench, Proverbs and Their Lessons (On the lessons in proverbs), 1853
    リチャード・シェネヴィ・トレンチ『諺とその講義』(『諺の講義について』)。トレンチ(1807-1886)はアイルランドのダブリン出身の聖職者で、詩をはじめ多くの著作を残しており、1857年に文献学会で行った発表がオックスフォード英語大辞典(OED)の誕生のきっかけとなったことでも知られています。この諺の本は、1853年の初版当時はOn the lessons in proverbs (諺の講義について)という題名だったのが、1857年の第4版でProverbs and Their Lessons (諺とその講義)に改題されています。ロンドンとニューヨークで並行して刊行され、多くの版を重ねていることからも、よくできた「ことわざ概論」として広く読まれたことが窺われます。最初は5章構成だったのが、1853年(初版と同年)に「増補改訂されたロンドン第2版に基づく」としてニューヨークで出た版では6章に増えているのが確認されます。このトレンチの本は、約半世紀後の明治39年(1906)に出た藤井乙男の『俗諺論』(昭和4年に増補改訂して『諺の研究』と改題、のちに講談社学術文庫に収録)の元になったことでも知られています。「『俗諺論』の章立て及び各章の論旨は概ねProverbs [and Their Lessons] に従っており、その手法は文芸作品の翻案を連想させる」 (ことわざ学会会報「たとえ艸」第78号所収の武田勝昭「藤井乙男『俗諺論』再考 –R.C.トレンチの概論書との関連-」) と評されている通り、『俗諺論』に含まれる日本・東洋以外の記述についてはトレンチの本をそのまま翻訳したような箇所が多数存在するので、それらをベースに、日本と東洋の事例を追加しながら膨らませてできたのが『俗諺論』だといえそうです。インターネットでは順に (1st ed), London (以下L), 1853 [InternetArchive (以下IA)]; 同 [Google (以下G)]; New York (以下NY), 1853 [IA]; 同 [IA]; (2nd ed), NY, 1853 [IA]; 3rd ed, L, 1854 [IA]; 同 [G]; NY, 1855 [IA]; 同 [IA]; NY, 1856 [IA]; 同 [G]; 4th ed, L, 1857 [IA]; 同 [G]; 5th ed, L, 1861 [IA]; 6th ed, L, 1869 [G]; 7th ed, L, 1879 [G] などが閲覧可能。また、クレス出版『ことわざ資料叢書』第4輯第9巻 (2013) では1890年の第8版が復刻され、武田勝昭氏の解説が付されています。
  • Henry George Bohn, Handbook of Proverbs, 1855
    ヘンリー・ジョージ・ボーン『ことわざハンドブック』。ボーン(1796-1884)はドイツ人を父に持つイギリスの出版業者で、1846年に創始した Bohn's Library(ボーンズ・ライブラリー)は明治・大正時代には「ボーン文庫」、「ボオン叢書」として知られ、おそらく岩波文庫がお手本としたことで知られるドイツのレクラム文庫などと並んで、勉強熱心な日本人にはよく読まれたようで、例えば大正13年(1924)の芥川龍之介「リチヤアド・バアトン訳「一千一夜物語」に就いて」(青空文庫)には、レエン訳の千夜一夜物語に関して「殊にボオン(Bohn)叢書の二巻ものは、本郷や神田の古本屋でよく見受けられる」という一節があります。このボーンが出版した『ことわざハンドブック』は、当初の予定では、当時稀覯本となっていた 17世紀後半のジョン・レイ『英語ことわざ集』の復刻に、単にアルファベット順の索引を付して刊行するつもりだったのが、いざ索引が出来上がってみると、よく使われる英語のことわざが多数抜け落ちているのに気づいたため、ボーンが自分で集めた英語のことわざや格言を大幅にこの索引に追加してできた本であると、序文に書かれています。その結果、前半はジョン・レイのことわざ集の復刻、そしてそれとほぼ同じ分量の後半は、レイのことわざ集の索引を兼ねた、ボーン編纂によるアルファベット順の英語ことわざ集のような体裁になっています。それゆえ、本来なら「ジョン・レイ著、ボーン編」とすべきかもしれません。1888年版1899年版が Internet Archiveで閲覧可能。なお、ボーンはこの2年後に、今度は最初から自分で取捨選択して編纂した多国語ことわざ集 A Polyglot of Foreign Proverbs (下記)を出しています。
  • Auguste Jullien, Le véritable Sancho-Panza ou, Choix de proverbes, dictons, adages colligés pour l'agrément de son neveu E. L. [Edouard Lockroy], 1856
    1856年刊。オーギュスト・ジュリアン『真のサンチョ・パンサ』。副題は「甥 E.L.(エドワール・ロックロワ)の楽しみのために集めたことわざ、俗諺、格言の選集」。表紙には著者名として単に「愛好家 A. J.」と署名されています。題名の「サンチョ・パンサ」は名作『ドン・キホーテ』とは直接の関係はなく、おそらく単に「ことわざを愛する者」の代名詞であり、「真のサンチョ・パンサ」とは「真にことわざを愛する者」の意味だと思われます。似たテーマのことわざ10個×10セット=100のことわざを、27の大きなテーマに沿って分類した本で(総数2,700)、解説やコメントはないものの、珍しい言葉が多く集められていて、読んでおもしろいことわざ集となっています。グランヴィル他『百のことわざ』の影響が顕著で、同書に収録されていることわざはほとんど収録されているだけでなく、表紙には「ことわざは諸民族の知恵である」と書かれ、『百のことわざ』と同様に La fin couronne l'œuvre.(仕上げが仕事に栄冠を授ける)ということわざで終わっています。 Google ; IA で閲覧可能。
  • Charles Cahier, Quelque six mille proverbes et aphorismes usuels empruntés à notre âge et aux siècles derniers
    1856年刊。美術史家・考古学者のシャルル・カイエが集めた「約六千の諺と格言」集。諺の部には 4844 の諺が収録されています(内訳:フランス 1-1870、イタリア 2777-3168、スペイン 3169-3768、ドイツ 3862-4357、イギリス 4358-4753 など)。Internet Archive, Google などで閲覧可能。
  • Henry George Bohn, A Polyglot of Foreign Proverbs, London, 1857
    ヘンリー・ジョージ・ボーンの編纂・翻訳による『多国語ことわざ集』。2年前に出した Handbook of Proverbs (1855) の続編(姉妹編)で、順にフランス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダ、デンマークの7か国語のことわざにボーンが英訳を付したもの。フランス語とドイツ語以外はネイティブに校閲してもらったと序文に書かれているので、ボーンはフランス語とドイツ語は堪能だったようです。このボーンの多国語のことわざ集は、明治43年(1910)の藤井乙男『諺語大辞典』のネタ本の一つとなったことが知られていますが、それ以外にも、このことわざ集に含まれていることわざは、各国で編まれた現代に至るまでの多くのことわざ集(Strauss (1994) を含む)にもそのままの形で踏襲されているケースが少なからず見受けられます。フランス語の部は全64ページで、千数百のことわざが収録されています。選定基準は書かれていませんが、必ずしもよく使われることわざが集められているわけではなく、その証拠に、今では一般のフランス人には意味が理解できない古語(中世フランス語)を使った珍しいことわざが多数含まれています。そこで調べた結果、そうした古いことわざについては、J. Ray (1670/1678) の他、Le Roux de Lincy (1842)Gratet-Duplessis (1851) 等から多数採られていることがわかりました。また、グランヴィル他『百のことわざ』に含まれていることわざも、若干の例外を除いてすべてフランス語の部に収録されており、この本もボーンが参照して引用源としたことは疑いの余地がありません(Cf. 大橋 (2015), p.35)。1857年版 (a)1857年版 (b)(以上Google)、1867年版(IA)などが閲覧可能。
  • Pierre-Marie Quitard, Études historiques, littéraires et morales sur les proverbes français et le langage proverbial, Techener, Paris, 1860
    ピエール=マリー・キタール著『フランスの諺および諺的な言葉についての歴史的、文学的、道徳的研究』。キタールのいわば「諺三部作」の 2 作目。他の二つの諺関連の著作が個別の諺の解説(parémiographie パレミオグラフィー)であるのに対し、この本は諺というもの一般についての考察、つまり「諺学」(parémiologie パレミオロジー)に関する著作で、たとえば諺におけるレトリックについて考察されているなど、先駆的な試みとなっています。同時に、副題に「あらゆる選集において忘却されている多数の注目すべき諺についての説明と起源を含む」とあるとおり、個別の諺についても博識のキタールならではの解説が展開されています。原文は Google (a); 同 (b) などで閲覧可能。日本語訳は吉岡正敞訳『フランス語ことわざ研究』(駿河台出版社)。
  • Pierre-Marie Quitard, Proverbes sur les femmes, l'amitié, l'amour et le mariage, Garnier frères, Paris, 1861
    ピエール=マリー・キタール著『女性、友情、恋愛、結婚についての諺』。キタールのいわば「諺三部作」の3作目。「女性に関する諺」、「友情に関する諺」、「恋愛に関する諺」、「結婚に関する諺」の4章で構成されています。初版は Google 等で閲覧可能。大幅に加筆された増補改訂版が1878年に出ており(Google 等で閲覧可能)、ここにはキタールがグランヴィル他『百の諺』増補改訂版のために書いた女性や恋愛等に関する文章が組み込まれています(Cf. 大橋 (2015), p.31)。
  • J. Hatoulet et E. Picot, Proverbes béarnais, 1862
    スペインと国境を接するベアルン地方の諺を集めた本。序文と注釈のみがフランス語(標準語)で、本文はベアルン語(オック語ベアルン方言)なので、方言辞典を参照しない限り読むのが困難(ほとんど不可能)。ただし、フランス語と意味が同じで綴りが違う程度のものについては、類推が働く場合もあります。Google で閲覧可能。
  • Le Courrier de Vaugelas, 1868-1887
    『ヴォージュラ通信』。碩学エマン・マルタン(Éman Martin, 1821-1882)が1868年10月1日に創刊した語学教育雑誌。イギリスでフランス語を教えていたエマン・マルタンが、フランスに帰国後、かつての熱心な教え子からの質問に手紙で答えていたのに対応しきれなくなり、外国に住むフランス語学習者のための雑誌の形にしたもの。内容は高度で、特に言葉の由来となった歴史的な逸話に詳しく、この雑誌に載せたエマン・マルタンの説明は仏仏辞典リトレでも引用されているほど。生前の分は Gallica で閲覧可能。慣用句や諺に関する一部の記事は、死後に Éman Martin, Deux cents locutions et proverbes, Librairie Delagrave, Paris, 1925(『200の成句と諺』)として刊行されています。
  • Jean-François Bladé, Proverbes et devinettes populaires recueillis dans l'Armagnac et l'Agenais, Paris, Champion, 1879
    ガスコーニュ(スペインに近いフランス南西部)の民話を多数書き留めて書物に残したことで知られる民俗学者ジャン=フランソワ・ブラデの『アルマニャック地方とアジュネ地方で採録された民間の諺となぞなぞ遊び』。ガスコーニュ語(オック語ガスコーニュ方言)とフランス語との対訳形式。 Google で閲覧可能。
  • Auguste Benoît, Notice sur Jean Le Bon, médecin du Cardinal de Guise, 1879
    オーギュスト・ブノワ『ギーズ枢機卿お抱え医師ジャン・ル・ボンの略歴』。主にジャン・ル・ボンの諺集 (1577) に収められた諺やその他の著作を手がかりにして、ジャン・ル・ボンの思想と生涯を浮かび上がらせた、簡潔ながら先駆的な本。Google で閲覧可能。1971年にリプリントが出たために再び読まれ、Rivière (1982)Vartier (1985) で引用・踏襲されています。
  • Francis Steenackers et Tokunosuke Uéda, Cent Proverbes Japonais, 1885
      ⇒ explication en français
    フランシス・ステナケル/上田得之助著『百の日本の諺』。江戸時代の絵とフランス語の文章によって 100の日本の諺を解説した本。画家の名は記されていませんが、1863年(文久3年)に『狂斎百図』を刊行した河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)であり、文章を書いたステナケルは日本在住のフランスの外交官、また Tokunosuke Uéda は横浜のフランス領事館に勤務していた上田得之助であることが、日本語訳である『絵解き江戸庶民のことわざ』(1991, 東京堂出版)を訳した北村孝一氏の調査により明らかとなっています(Cf. 河鍋暁斎研究会「暁斎」第44号所収「フランスで読まれていた暁斎のことわざ絵 -『狂斎百図』と『CENT PROVERBES JAPONAIS』」)。
  • A. J. D., Proverbes, dictons & locutions diverses à propos de chats et de chiens, Gaston Andrieux, Noyon, 1885
    匿名(イニシャルのみ)で出版された『猫と犬に関するさまざまな諺、俗諺および成句』。猫と犬に関する諺が解説されています。 Google で閲覧可能。
  • A. J. D., Proverbes, dictons & locutions diverses à propos de singes, Gaston Andrieux, Noyon, 1885
    上と同じ著者による『猿に関するさまざまな諺、俗諺および成句』。 Google で閲覧可能。
  • Lorédan Larchey, Nos vieux proverbes, 1886
    ロレダン・ラルシェ『フランスの古いことわざ』。著者ラルシェは1831年、ドイツと国境を接するロレーヌ地方メス (Metz) 生まれ。父フランソワ=エチエンヌは軍人(砲兵隊の大尉)で、のちにナポレオン3世に仕える中将に昇進しています(ラルシェについては親友による伝記 Paul Cottin, Lorédan Larchey, Paris, 1905 を参照)。そのナポレオン3世は1870年の普仏戦争でまさにメス近郊においてプロイセン軍の捕虜となり、フランスは敗北し、メスはドイツの領土に編入され、40才にしてラルシェは故郷を失うことになります。そうした背景もあって、ラルシェの文章には強い愛国主義が感じられることがあります。ラルシェはフランス国立図書館の前身であるアルスナル図書館に勤め、隠語辞典 (Les Excentricités du langage, 1860) を編纂したことでも知られています。ラルシェ55才のときに出版された『フランスの古いことわざ』は、16世紀に同じロレーヌ地方で活躍したジャン・ル・ボンの諺集 Jean Le Bon (1577)Meurier (1568) から主に採取した諺をテーマ別に並べ、随筆風の解説をつけた本。ラルシェは趣味でデッサンも描いたため、ここに収められた挿絵も自分で描き、あとでプロに修正してもらったと、序文に書かれています。 Google, Internet Archive で閲覧可能。この本に収められた挿絵と本文は、「ラルシェの挿絵」のページでいくつか紹介しています。
  • Didier Loubens, Les proverbes et locutions de la langue française
    1888 年刊。ディディエ・ルーバン著『フランス語のことわざと成句』。キタール(1842)をもとに、多少アレンジして書かれた本のようです。Google で閲覧可能。
  • Nizier du Puitspelu, Le littré de la Grand'Côte, 1894
    ニジエ・ド・プュイプリュ『グランコートのリトレ』。グランコート Grand'Côte は、ヨーロッパ随一の絹織物の産地だったフランスの大都市リヨンのなかでも、貧しい絹織物工が多く住んでいたグランド・コート Grande Côte(「大きな斜面(坂)」の意味)と呼ばれる斜面状の界隈を指す地名を俗語風に縮めた言い方。リトレは19世紀における国語辞典の代名詞なので、「グランコートのリトレ」とは「リヨンの絹織物工の俗語辞典」という意味に理解することができます。編著者ニジエ・ド・プュイプリュはリヨンの建築家クレール・ティスール Clair Tisseur (1827-1895) の筆名。絹織物工に囲まれて育ったティスールは、リヨン市内の多くの教会の建築を手がけるかたわら、リヨンの人々の言い廻しをまとめておきたいという思いからこの辞典を執筆したようです。ただし、リヨンの労働者はオック語を話す近隣の県の出身者が多かったためかオック語をそのままフランス語に置き換えたような表現が多数含まれていること、またここに収められた表現のいくつかは今なお南仏で広く使われていることがデュヌトンによって指摘されています (Duneton (1990), p.35)。地元の小さな出版社からたびたび刊行されたらしく、1903年版がGallicaで閲覧可能。風変わりな俗語表現が多数収録されており、なかには諺らしいものも混じっています。たとえば hôpital(施療院)の項には、日本の「目くそ鼻くそを笑う」に相当する「それは慈善病院をあざ笑う施療院だ」という表現が「リヨン固有の」ことわざとして載っています。
  • Harbottle & Dalbiac, Dictionary of quotations (French and Italian)
    1904 年刊。ロンドンで刊行された、フランス語とイタリア語の諺・格言・名言を集め、出典を明記し、英訳を付けた本。Internet Archive で閲覧可能。
  • Paul Eluard et Benjamin Péret, 152 proverbes mis au goût du jour, 1925
    ポール・エリュアール/バンジャマン・ペレ共著『現代風にした152のことわざ』。ここに集められている152のことわざ(風の短文)は、大きく二種類に分類できそうです。一つは、ことわざ(慣用句、名言を含む)をもじった言葉。たとえば「猫が去って鼠たちが踊る」をもじった「理性が去って鼠たちが踊る」や、「鉄は熱いうちに打て」をもじった「母は若いうちに打て」など。もう一つは、特定のことわざを踏まえているわけではなく、ことわざによく見られる言いまわし(無冠詞の名詞、二要素からなる文、命令形など. Cf. グレマス, 1970)を用いて創作された、ことわざ風の文ないし語句で、こちらは個別のことわざのパロディーではなく、ことわざという「ジャンル(全体)に対するパロディー」(*) だといえるかもしれません。たとえば「指輪に応じて指を切れ」や、「歩道は性器を混ぜ合わせる」など。ほとんど意味不明なものや、意図をはかりかねるものも多数含まれていますが、これは紋切型の表現を改変することで既存の思考パターンや世界観をゆさぶろうとするシュールレアリスト特有の詩的な試みである以上、当然のことだともいえます。第一次大戦後、言葉 (signifiant) とそれが指すもの (signifié) との安定した関係が失われた世界が出現し、その不安定さにおびえながらも、逆に言葉には世界を揺るがす力が秘められていることに気づき、意識的にその力を活用しようと試みたのがシュールレアリスムの文学運動(文芸活動)だったとすると、ことわざという紋切型の最たるものを扱ったこの作品は、そうした試みを典型的に示しているといえます。全体として、「ことわざ集」と「詩集」の中間のような印象を受けます。初版は1925年にホチキスで仮綴じされた全28ページの小冊子として刊行されており、エリュアールの全集 (Paul Eluard, Œuvres complètes, Gallimard, Bibl. de la Pléiade, tome.I, pp.153-161) には草稿も併録されています。ジュネット『パランプセスト』でも言及されています。
    (*) Cf. Albert Mingelgrün, Jalons pour une analyse des « 152 proverbes » d'Éluard et de Péret, in Revue belge de philologie et d'histoire, t. 59 fasc. 3, 1981 [Persée], p.581
  • Joseph Morawski, Proverbes français antérieurs au XVe siècle
    1925 年刊。ジョゼフ・モラウスキ『15 世紀以前のフランスの諺』。印刷技術が普及する以前(活字の本が出版される以前)の、さまざまな「写本」(その多くはパリの国立図書館に収蔵)に見られる 2,500 の諺を抜粋し、古いフランス語の綴りのままアルファベット順に配列し、出典を明記した本。1世紀前の本ですが、いまだに重宝されています。
  • Archer Taylor, The Proverb, 1931
    アーチャー・テイラー『諺』。この本の冒頭に記された次の言葉は、「諺とは何か」を問題にするときには必ずといってよいほど(定義が困難であることの言いわけとして)引用されます。
    • The definition of a proverb is too difficult to repay the undertaking; and should we fortunately combine in a single definition all the essential elements and give each the proper emphasis, we should not even then have a touchstone. An incommunicable quality tells us this sentence is proverbial and that one is not. Hence no definition will enable us to identify positively a sentence as proverbial.
      諺を定義することは困難すぎるため、定義しようとする試みは割にあわない。運よく一つの定義の中にすべての主要な要素を組み合わせ、各要素をしかるべく強調することができたとしても、それでもなお〔諺とは何かの〕判断基準となるようなものは得られないだろう。この文は諺で、この文は諺ではない、と私たちに教えてくれるのは、あるいわく言いがたい特徴なのである。それゆえ、どのような定義を使っても、私たちはある文が諺であると肯定的に断定することはできないだろう。
  • Maurice Rat, Dictionnaire des Expressions et Locutions traditionnelles, Larousse, 1957 (2007)
    モーリス・ラによるラルース『表現成句辞典』。いわゆる諺は少数で、成句が中心ですが、詳しく解説されています。「モーリス・ラはキタールの空想的な主張をしばしば批判せずに取り上げている」Duneton (1990), p.36)と評されるとおり、Quitard (1842) の影響が濃厚。
  • Maurice Maloux, Dictionnaire des proverbes sentences et maximes, Larousse, 1960 (2009)
    ラルースの定番の諺辞典。世界各国の諺・格言をテーマ別に集めた本。ほとんどの場合、出典が 1 行記載されているだけですが、これが結構参考になる場合があります。この日本語訳が『ラルース世界ことわざ名言辞典』(ただし、現行のこの本に付されている序文は、日本語訳には含まれていません)。
  • Ronald Ridout and Clifford Witting, The Macmillan Dictionary of English Proverbs Explained, 1967 (1995)
    『マクミラン 英語諺解説辞典』。中高生でもわかる平易な言葉で諺の意味や用例を説明した、比較的薄い本。
  • Claude Duneton, La Puce à l'oreille, Nouv. éd. rev. et augm, 1990
    1978 年に初版が出た、クロード・デュヌトンによる、よく使われる俗語表現の歴史・起源を随筆風に詳しく解説した本で、副題は「起源を記した俗語表現集」。本題の la puce à l'oreille は直訳すると「耳に蚤(のみ)」で、古くは「性的欲求を抱く(体がむずむずする)」という意味で広く使われたのが、「眠れないほど激しい不安にさいなまれる」という意味に変わり、特に他人が陰で自分の悪口を言っているのではないかと気にする時に使われたようですが、現代では「用心する、疑う」という、いわば日本の「眉唾」に近いような意味で使われます。とすると「眉唾の本」ということになりますが、上のような意味の変遷を用例を挙げて詳しく記した、信頼できる本です。
  • Alain Rey / Sophie Chantreau, Dictionnaire des expressions et locutions, Le Robert, Les Usuels, 2007
    1979 年に初版が出た、ロベールの表現辞典。アラン・レイは各種ロベール仏仏辞典の編者。解説も詳しく、この本の定義は TLFi でも引用されているほどです。その後、Di Stefano (1991) などの成果を取り入れた増補改訂版が現在出ている本のようです。
  • Florence Montreynaud / Agnès Pierron / François Suzzoni, Dictionnaire de proverbes et dictons, Le Robert, Les Usuels, 1989
    1980 年に初版が出たロベールの諺辞典。「フランスの諺」、「フランス語のディクトン」(気象や俗信に関するディクトン)、「世界の諺」の 3 部構成。個々の諺は、むしろ同じシリーズのロベールの表現辞典のほうが詳しく説明されています。「世界の諺」の部を担当した Suzzoni の序文は卓見に富み、もともと諺は性的な含意が含まれていることが多いのに「検閲」によってそうしたニュアンスが脱落した、とか、諺を「話している」のは一家の主である男性であり、それゆえに女性蔑視の諺が多い、といった事柄が指摘されています。
  • Jean-Louis Flandrin, Le Sexe et l'Occident, 1981
    フランドラン『性と西欧』。アナール学派の歴史学者による愛、性、結婚、子供などをテーマとした論文集。その中の論文「子供についての昔と今の常套文句」(初出1976年)では、主に16世紀以降の子供に関する諺を取り出し、当時の社会的背景の中に置き直しながら、昔の人々が「子供」をどのように捉え、イメージしていたのかを浮かび上がらせようと試みています。この中で、諺に表現されている考え方は必ずしも当時の一般的な考え方をそのまま反映しているとは限らず、世間の風潮の変化に対する保守的な人々からの反動が諺となって表現されている場合もあり、例えば1861年のキタールの諺集に反フェミニズム的な諺が多いのは、「妻を殴る権利を男たちがそのころ失いつつあったからではないだろうか」(宮原訳)といった指摘がなされています。この他、短い「フランスの古い諺における若い娘」(初出1978年)を併録。日本語訳は宮原信訳『性の歴史』(藤原書店)。  ⇒ amazon
  • Gérard Genette, Palimpsestes : La Littérature au second degré, 1982
    ジェラール・ジュネット『パランプセスト』。パランプセストとは、羊皮紙に書かれた文字を消し、その上に新しい文章を書いた写本のこと。しかし、完全には消えておらず、以前書かれた文章が透けて見える場合も多いそうです。この消しては書くという作業を、古い作品をもとに新しい作品を書くという文学的な営為になぞらえた文学論。第8章で、シュールレアリスト等による諺のパロディーについて取り上げられています。日本語訳は『パランプセスト:第二次の文学』(和泉涼一訳、水声社、1995)。  ⇒ amazon
  • Richesse du proverbe : études réunies par François Suard & Claude Buridant, 1984
    1981年3月6~8日にクロード・ビュリダンが中心となってフランス北端のリール第3大学で行われた「諺学シンポジウム」での発表に基づいて刊行された論文集(全2巻)。合計29の論文が収められています。特に参照した論文:
    Hubert Le Bourdellès, « Les proverbes et leurs désignations dans les langues antiques » (vol. 2, pp.115-119)
    A.M. Ieraci Bio, « Le concept de Paroimia : proverbium dans la haute et la basse antiquité » (vol. 2, pp.83-94)
    Claudie Balavoine, « Les principes de la parémiographie érasmienne » (vol. 2, pp.9-23)
  • Jean Vartier, Le grand livre des proverbes et dictons de Lorraine et du Bassigny, Vent d'Est, Nancy, 1985
    ジャン・ヴァルチエ『ロレーヌおよびバシニー地方の諺と俗諺についての大いなる本』。著者ヴァルチエは、1927年ロレーヌ地方ヴォージュ県生まれ。『19世紀ロレーヌ地方における日常生活』などの郷土色の強い本を多数出しています。この諺の本では、まず同郷の偉大なる先人であるジャン・ル・ボンの諺集 (1577) について解説したのち、自分で見聞きしたロレーヌ地方(およびバシニー地方)の諺について解説しています。ヴァルチエ自身は、同じく同郷の Larchey (1886) によく言及しますが、諺を通じてジャン・ル・ボンの思想と生涯を浮かび上がらせようとする手法は Benoît (1879) そっくりで、引用している諺もほぼ同じです。
  • Jean-Yves Dournon, Le dictionnaire des proverbes et dictons de France, Hachette, Le Livre de Poche, 1986
    解説は Quitard (1842) の影響が濃厚ですが、諺どうしの関連づけ方なども含め、思わぬヒントを提供してくれる場合もあります。
  • George Lakoff and Mark Turner, More Than Cool Reason : A Field Guide to Poetic Metaphor, University of Chicago Press, 1989.
    アメリカの認知言語学の創始者の一人ジョージ・レイコフの代表的著作の一つ(マーク・ターナーとの共著)。第4章で諺について取り上げています。諺では、表面上は個別の事柄について述べながらも、隠喩によって一般的な事柄が表現されていると指摘し、これを「『一般性は個別性である』の隠喩」(the GENERIC IS SPECIFIC metaphor)と名づけています(ただし、これは「隠喩」ではなく「換喩」または「提喩」とすべきだと複数の研究者が指摘しています)。また、諺では物や動物など(=自然界での下位の存在)について述べていても、実質的には隠喩によって人間(=自然界での上位の存在)について言っていると指摘し、この自然界での上下関係を「存在の大連鎖」(the Great Chain of Being)と名づけた上で、下位のものによって上位のものを表現する働きのことを「大連鎖の隠喩」(the Great Chain Metaphor)と呼んでいます。フランスの諺の論文でもよく引用されています。日本語訳は大堀俊夫訳『詩と認知』(紀伊國屋書店、1994)。  ⇒ amazon
  • Claude Duneton, Le bouquet des expressions imagées, 1990
    La Puce à l'oreille の著者クロード・デュヌトンによる 1357 ページの表現事典『比喩的表現の花束』。 Oudin (1640), Furetière (1690), Quitard (1842) などから抜粋した表現を、テーマごとに時代順に並べた本。
  • Renzo Tosi, Dictionnaire des sentences latines et grecques, Jérôme Millon, 2010 (original en italien : 1991)
    ボローニャ大学で古典文献学を教えるレンツォ・トージが1991年にイタリア語で出した『ラテン語・ギリシア語格言辞典』の仏訳。古代ギリシアから中世ラテン語までの 2,286 の諺・格言・成句・名言について、先行する Walther をはじめとする学問的な業績を受け継ぎながら文献学的な正確さを期して解説された、仏語版で 1,792 ページの圧倒的な本。近代文学での使用例も豊富に挙げられ、また類似のフランス語のことわざにもかなり言及されています。現代のエラスムスかと錯覚せんばかりだといったら褒めすぎでしょうか。仏語訳も秀逸。ウンベルト・エーコが巻頭で短いエッセーを寄せています。
  • Giuseppe di Stefano, Dictionnaire des locutions en moyen français, CERES, Montréal, 1991
    モントリオール(カナダ)のマギル大学のジュゼッペ・ディ・ステファノによる定評ある『中世フランス語成句辞典』。諺も含む熟語・成句表現の出典を詳しく記載した本。
  • Mieder, Kingsbury, Harder, A dictionary of American Proverbs, Oxford University Press, 1992
  • Emanuel Strauss, Dictionary of European Proverbs
    1994 年刊。2,200 ページ。英語を中心に、ヨーロッパ 65 の言語・方言による 7 万以上の諺を比較対照できるように並べた本。Google で一部分のみ閲覧可能。
  • Joachim Lengert, Romanische Phraseologie und Parömiologi, 2 Bde, 1999
    ヨアヒム・レンゲルト『ロマンス諸語の慣用句および諺学』。副題「起源から1997年までの部分注釈つき書誌」。諺集や諺に関する本、論文を集めた浩瀚な書誌目録。全2巻、計2132ページ。第1巻:ロマンス諸語、フランス語、イタリア語。第2巻:カタロニア語、ポルトガル語、プロヴァンス語、ルーマニア語、サルデーニャ語、スペイン語。第1巻の一部が Google で閲覧可能。
  • Agnès Pierron, Dictionnaire des dictons et proverbes, 2000
    アニエス・ピエロン『ディクトン・諺辞典』。上記ロベールの諺辞典で「フランス語のディクトン」の部を担当しているだけあって、ディクトン(dicton)の部が本の半分を占めているのが特徴。この著者は演劇にも詳しく、ことわざ(proverbe)の部では「ことわざ劇」への言及が目立ちます。ただし、「辞典」という名に反して、まったく説明がないものがほとんどです。
  • Samuel Singer, Thesaurus proverbiorum medii aevi - Lexikon der Sprichwörter des romanisch-germanischen Mittelalters, begründet v. Samuel Singer, édit. Kuratorium Singer der Schweizerischen Akademie der Geistes- und Sozialwissenschaften, Berlin/New York, Walter de Gruyter, 1995-2002, 13 vol et Quellenverzeichnis (TPMA)
    中世の諺研究の泰斗、ドイツ人ザムエル・ジンガーの構想に基づく 13 巻本(および出典一覧 1 巻)の『中世諺宝典 - 中世ロマンス・ゲルマン諸語諺辞典』。フランス語に限らず、ヨーロッパ各国語の中世のどの文献にどのような形で諺が記載されているのかが文献学的に厳密な調査に基づいて詳細に記載され、現代ドイツ語に訳されています。「現在、西欧の格言・諺の伝統を分析するための主要な基礎の一つとなっている」 (Schulze-Busacker (2012), p.9) と評されているとおり、現代の諺研究のひとつの頂点を示すものといえます。第4巻第5巻第7巻第8巻第9巻第10巻出典一覧などの一部が Google で閲覧可能。参考:日本の Amazon の検索結果
  • Paulin Duchesne, La lumière des mots : quand les proverbes nous éclairent, 2003
    ポーラン・デュシェンヌ『言葉への光:諺が私たちを照らすとき』。数十個の諺を取り上げ、随筆風に解説した本。
  • Fred R. Shapiro, The Yale Book of Quotations, 2006  ⇒ amazon
    イエール大学の引用句辞典。作家別に有名な言葉が並んでおり、誰が言ったのか明確な諺はその作家の項目に、そうでない場合は Proverbs の項目に収録されています。出典が明記されているので調べるのに便利。
  • Yves-Marie Visetti & Pierre Cadiot, Motifs et proverbes : Essai de sémantique proverbiale, 2006
  • Bernard Klein, La cuisse de Jupiter, 2006
    ベルナール・クラン『ユーピテルの太もも』。この題名は、「高貴な生まれである」ことを意味する「ユーピテル(ジュピター)の太ももから生まれた」という成句表現によるもの。ラテン語に由来する故事成句を、歴史学者が平易な言葉で解説した薄い本。
  • Jean-Paul Roig, Citations historiques expliquées, Éd. Eyrolles, Paris, 2007
    ジャン=ポール・ロワ『歴史的引用句の解説』。
  • Bernard Klein, Les expressions qui ont fait l'histoire, 2008
    ベルナール・クラン『歴史を作った表現』。歴史上有名な言葉や、歴史的な事実または逸話に由来する表現を集め、歴史学者が平易な言葉で解説した薄い本。
  • Jennifer Speake, The Oxford Dictionary of Proverbs (Oxford Paperback Reference), 5th Edition, 2008  ⇒ amazon
    英語で書かれた定番の『オックスフォード諺辞典』第5版。388ページ。上記『オックスフォード英語諺辞典』の簡略版が版を重ねて進化したもので、元になった本よりも初出年代が遡られている場合もあります。粗悪な紙質の安価なペーパーバックながら、初出や出典に詳しく、非常に中身の濃い一冊です。フランスにはこれに相当するような本は存在しないだけに、フランス語の諺を調べる場合にも有益です。
  • Laetitia Pelisse / Mauro Mazzari, Proverbes pour réfléchir, Oskar jeunesse, Paris, 2009
    子供向けの絵本。28の諺が取り上げられています。現在のフランスで、子供がどのような諺をどのような説明とともに覚えるのかがわかるという点で貴重。
  • Jean-Loup Salètes, Sous l'arbre à palabre, La Fontaine de Siloé, 2009
    アフリカ大陸の西の端、セネガルに学校の先生として赴任していた著者がアフリカ各地のことわざを集め、フランス語に訳したもの。ちなみに、著者のサレットさんはサヴォワ在住で、アナトール・フランスに序文を書いてもらった小説家を祖父に持ち、縁あって本ホームページ作者とも手紙のやり取りをしています。この本はフランスで2万部も売れているそうです。
  • Marie-Thérèse Lorcin, Les recueils de proverbes français (1160-1490), 2011
    マリー=テレーズ・ロルサン『フランスのことわざ集(1160-1490)』。ファブリオ(中世の笑い話)の研究者による、フランス中世に編まれた各種ことわざ集についての論考を集めた本。
  • Sylvie Brunet, Les proverbes, Éditions First-Gründ, Paris, 2011
    シルヴィ・ブリュネ『諺』。日本の文庫本よりも小さな小冊子ですが、100 個の諺について現代における意味、ニュアンス、使い方などが非常に丁寧に解説されており、参考になります。
  • Georges Planelles, Les 1001 expressions préférées des Français, Editions de l'Opportun, 2011 (coll. Poche, 2014)
    『フランス人が好む1001の表現』という題のとおり、多くは成句表現で、ことわざは少数。専門家ではない自称「言葉好き」の著者が自身のウェブサイト Expressio に掲載していた文章を本の形にしたもの。学問的な正確さは追求されておらず、眉に唾をつけたくなるような話も載っていますが、平均的フランス人がどう考え、受け止めているかを知ることができます。
  • Agnès Pierron, Pierre qui roule... : Petit dictionnaire des proverbes, 2011
    アニエス・ピエロン『転がる石は...』。数百個の諺をテーマ別に並べた本ですが、上記 Pierron (2000) の後半の諺の部とほぼ同文。
  • Jean-Loup Chiflet, 99 proverbes à foutre à la poubelle, 2012
    ジャン=ルー・シフレ『ゴミ箱に捨てるべき 99 の諺』。駄洒落を多用し、わざと諺の主張を逆手に取ったり、額面どおりの意味に取ったりして諺の不条理な側面に光を当てた、ユーモアと皮肉に満ちたエッセー。
  • Véronique Cauchy / Amélie Falière, Les proverbes racontés et expliqués aux enfants, Ed. Rue des enfants, 2012
    子供向けの絵本。40の諺が取り上げられています。
  • Le Petit Larousse illustré 2013  ⇒ amazon
    定番の仏仏辞典『プチ・ラルース』。毎年、秋の新学期が始まる前の夏休み中に新しい版が出ます。全ページカラーで、むしろ簡単な百科辞典というべきです(国語辞典としては、あまり詳しい意味は載っていません)。教育的な配慮が強く感じられ、フランスの中高生向けの副教材という雰囲気もあります。
    前半が普通名詞、後半が固有名詞で、その間に挟まれた、いわゆる「ピンクのページ」(pages roses)では、「ラテン語・ギリシア語・外国語の成句」と並んで、「諺、格言および金言」として 180 個前後の諺が取り上げられ、簡潔に意味が書かれており、現在フランスでよく使われている諺を知ることができます(ただし詳しく見ると、必ずしも頻度の高いものばかりが集められているわけでもなく、『十九世紀ラルース』をはじめとする先行するラルース系統の辞典に載っていたものが引き継がれているケースもあるようです)。
    ⇒『プチ・ラルース』のことわざリスト
  • Elisabeth Schulze-Busacker, La didactique profane au Moyen Âge, 2012
    フランス中世の諺研究の第一人者エリザベト・シュルツェ=ブザッカーによる『中世における世俗教育』。
  • J.-C. Anscombre, B. Darbord, A. Oddo (sous la direction de), La parole exemplaire : Introduction à une étude linguistique des proverbes, 2012
    J-C. アンスコンブル、ベルナール・ダルボール、アレクサンドラ・オッド監修『模範的言葉:言語学的諺研究序説』。国立科学研究センター(CNRS)のアンスコンブルが中心となり、パリ第10大学のダルボールとオッドが加わって監修した、フランスとスペインの総勢 22 名の研究者による諺に関する 26 の論文を集めた本。その半数以上が言語学的なアプローチで、残りの多くは文学史的な研究となっています。
  • Bernard Leduc, Les dictons et les proverbes c'est malin, 2013
    ベルナール・ルデュック『諺とディクトンはおもしろい』。ことわざ集は昔からたくさん出ていますが、気のきいた言葉を選び、お洒落な文章を添えれば、いくらでも新鮮で魅力的な読み物にできることを示したような本。

その他、論文については、特に以下を参照しました。

  • A. J. Greimas, « Les proverbes et les dictons », in Du sens, Ed. du Seuil, 1970, pp.309-314
    構造主義の記号論で有名なグレマスの主著の一つ『意味について』に収められた、諺について書かれた短い論文「諺と格言」。「話の中に諺を差し挟むときは、誰しも諺の部分だけイントネーションを変える」、「諺には古風な表現が使われることが多く、これにより先人の知恵のような権威が与えられる」、「諺の動詞は現在形が多いが、これは永遠普遍の真実を示している」、「諺の文は二要素からなるものが多い」などの指摘がなされています。もともと1960年に Cahiers de lexicologie (語彙論研究)誌に発表された20ページほどの論文 « Idiotismes, proverbes, dictons » (イディオム、諺、格言)の「イディオム」を除く後半部分を再録したもの。日本語訳もあります。  ⇒ amazon
  • Daniel Rivière, « De l'avertissement à l'anathème : le proverbe français et la culture savante (XVIe-XVIIe siècle) », Revue Historique, N°543, juillet-sept. 1982, p. 93-130
    ダニエル・リヴィエール「忠告から異端宣告まで:フランスの諺と教養文化(16~17世紀)」。16世紀にはまだ有益な「忠告」ないし行動規範として尊重されていた諺が、17世紀にいわば「異端宣告」されて「排斥」されるようになるまでの流れを追った論文。とりわけ重要なことが二つ指摘されています。一つは、ラブレー(16世紀前半)にはまだ残っていた、ミサや聖職者を馬鹿にし、卑俗・卑猥なものを好んで取り上げる中世の民衆文化が、16世紀後半に宗教改革後のカトリック教会によって抑圧されていくのとほぼ時を同じくして、そうした中世の文化の流れを汲む諺は、諺集や諺辞典の編纂者たちから「検閲」を受け、一部の諺は意図的に無視され「忘却」されたこと。もう一つは、17世紀に諺が民衆の話す卑俗な言いまわしとして知識人から「排斥」されるようになった背景には、当時、「民衆の卑俗な言葉」と「教養ある知識人の言葉」との間に深い溝が生まれた(チュエ神父の言葉を借りれば、昔は「身分にかかわらず」同じ言葉を話していたのが、「一つの国に二つの言葉」 (Tuet (1789), p.166) が存在するようになった)という事情があること。
  • Schulze-Busacker, Elisabeth, « La constitution des recueils de proverbes et sentences dans l'Antiquité tardive et le Moyen Âge », La transmission des savoirs au Moyen Âge et à la Renaissance, éd. Pierre Nobel, Besançon, Presses universitaires de Franche-Comté, 2005, t. 1, p. 259-287.
  • Klein, Jean René (2007). « La phraséologie (et en particulier les proverbes) dans le Trésor de la langue française informatisé », in : Actes du Séminaire de méthodologie en étymologie et histoire du lexique (Nancy/ATILF, année universitaire 2005/2006), Nancy, ATILF (CNRS/Université Nancy 2/UHP)
    諺に関する論文。テキストを電子化することで TLFi よりも初出年代を遡ることが可能であることを、実例を挙げて示しています。
    ここで取り上げられている『自動化文献学的フランス語諺辞典』(略称ディコプロ)(Dictionnaire automatique et philologique des proverbes français, DicAuPro)は、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学とイタリアのバーリ大学が長年かけて進めている電子化プロジェクトで、これによって中世以来のフランス語の諺(さまざまなバリエーションを含む)の初出年代がこれ以上ないほど詳しく正確に特定できるようになるはずなので、完成して一般に公開されることが待ち望まれます(2012年末にオンライン化予定とも言われていましたが、遅れているようです)。
  • Georges Kleiber, « La métaphore dans les proverbes : un trait définitoire ou non ? », in (Pré)publications, N°196, 2010, pp.41-62
    フランスの諺研究の第一人者でストラスブール大学の言語学教授Georges Kleiber(ジョルジュ・クライバー)が2009年にデンマークのオーフス大学から名誉博士号を授与されたのを記念し、オーフス大学の仏文科で行われたシンポジウムでの発表に基づく論文「諺における隠喩:定義づける特徴か否か?」。フランスでは昔からよく「諺は比喩を用いた表現である」というような言い方がされてきたが、比喩の使用を諺の必須条件とすると、比喩を用いない文字どおりの諺(「悪銭身につかず」など)は諺とは呼べないことになってしまう。「文字どおりの諺」を諺のうちに含めつつ、なおかつ dicton は諺には含めないようにするには、どうしたらよいか。それには、(抽象化されていて)複数の状況に当てはまること(聞いたときに人によってイメージされる事柄は異なるが、それらすべてに当てはまること)を諺の要件に採用すれば、「比喩的な諺」も「文字どおりの諺」も等しく諺と呼ぶことができ、なおかつ dicton は(特定の1つの状況にしか当てはまらないので)排除できる、としています。

フランス文学に出てくる諺

  • 『イソップ物語』  ⇒ amazon
    紀元前 6 世紀頃、古代ギリシア時代の寓話集。イギリスの古典学者ウェストは、「紀元前二千年紀のシュメールや紀元前八世紀のアッシリアでは諺のカテゴリーに入れられていた寓話が、前八世紀に智恵文学の形でギリシアに将来された」という説を唱えており(中務哲郎『イソップ寓話の世界』、ちくま新書、p.47)、「今日では、シュメール・バビロニア・アッシリアの諺的表現、あるいは修辞的表現に寓話の起源を求める考え方が有力になっている」(中務哲郎訳『イソップ寓話集』岩波文庫の解説)ようです。17 世紀にラ・フォンテーヌがフランス語に翻案しました。
    イソップ物語にはいくつかの版が存在し、現行の岩波文庫(中務哲郎訳)はペリー版ですが、ペリー版に収められていない話も結構あります。
    インターネット上では、Wikisource でシャンブリ版(フランス語)タウンゼント版(英語)が閲覧可能。日本語ではタウンゼント版イソップ寓話集 hanama 訳が閲覧可能(イソップの他の版やラ・フォンテーヌとの対応が記載されていて便利)。

  12 世紀

  13 世紀

  • 『薔薇物語』  ⇒ amazon
    前篇は 1230 年前後にギヨーム・ド・ロリスが書き、続編は 1270 年前後にジャン・ド・マンが書いたとされる、13 世紀を代表する寓意物語。物語の終わりは次のようになっています。「わたしは歓喜に酔い痴れながら、葉を付けた美しい薔薇の木から花を摘み取った。こうして深紅の薔薇を手に入れたのだった。やがて夜が明け、わたしは目を覚ました」(篠田勝英訳)。14 世紀にイギリスのチョーサー(1343 頃–1400)が英訳しています。
    原文は、インターネット上では Project Gutenberg で PIERRE MARTEAU 版(1878)がデジタル化されています(TOME I, TOME II)。
  • リュトブフ(Rutebeuf, ?-1285)
    中世を代表する詩人の一人で、多くの文学ジャンル(ファブリオー、聖史劇など)の作者。
    彼の詩は現代フランス語に直された上で 1950 年代にシャンソン歌手レオ・フェレによって歌われ、一般にも広く知られています。
    古フランス語の原文は Wikisource で閲覧可能。
    リュトブフの作品に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      L'habit ne fait pas le moine.
      Tout ce qui brille n'est pas or.
      Un malheur ne vient jamais seul.

  15 世紀

  • シャルル・ドルレアン(Charles d'Orléans, 1394-1465)
    国王シャルル 6 世の甥で、詩人として有名。百年戦争のさなかの 1415 年、フランス国内の内乱に乗じたイギリス王ヘンリー 5 世にアザンクールの戦いで破れ、25 年間イギリスで捕囚の身となる。1440 年に帰国後は、詩人たちに囲まれて自身も優雅な詩を作り、131 のシャンソン、102 のバラード、400 以上のロンドなどを残しました。彼の詩はホイジンガ『中世の秋』でもいくつか取り上げられています。原文は Googleprojet Gutenberg などで閲覧可能(いずれも 1842 年版)。
    シャルル・ドルレアンの詩に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      À trompeur, trompeur et demi.
      Il ne faut pas réveiller le chat qui dort.
      Quand le vin est tiré, il faut le boire.

  16 世紀

  • クレマン・マロ(Clément Marot, 1496-1544)
    中世の遺産を受け継ぎつつ、16 世紀フランスルネッサンスを切り拓いた詩人の一人。フランソワ 1 世に優遇されるが、当時の宗教改革やルターへの共感を隠さなかったため投獄され、スイスやイタリアへの逃亡を余儀なくされます。優雅でお洒落な詩を多数残しています。一部の作品は Wikisource でも閲覧可能。
    クレマン・マロの作品に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      Tout vient à point, qui sait attendre.
  • マチュラン・レニエ(Mathurin Régnier, 1573-1613)
    16 世紀末~ 17 世紀初頭に活躍した詩人。次の 17 世紀を準備したマレルブと対比されるために過小評価されやすい傾向があります。代表作は『諷刺詩集』Satires. 全集は Google 1 (1750) , Google 2 (1822) などで閲覧可能。
    ル・ルー・ド・ランシーの『フランスの諺の本』 1859 年版第 2 巻付録 4 には、レニエの作品に出てくる諺がリストアップされています。
    『諷刺詩集』に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      Aide-toi, le ciel t'aidera.
      Faute avouée est à moitié pardonnée.

  17 世紀

  • ラシーヌ(Jean Racine, 1639-1699)
    17 世紀の悲劇作家で、フランス古典主義文学の最高峰。ただし、壮麗な悲劇には諺は似合わないようで、諺は主にラシーヌ唯一の喜劇作品『裁判きちがい』に出てきます。
    『裁判きちがい』(Les Plaideurs 、1668 年)
    『訴訟狂』とも訳されます。これは滑稽な裁判官を笑いものにした作品で、ヴェルサイユで上演された時にルイ 14 世が大笑いして高い評価が確立されました。喜劇とはいえ、さすがラシーヌ、12 音節の「アレクサンドラン」と呼ばれる格調高い詩の形式になっています。原文は Wikisource などで閲覧可能。
    『裁判きちがい』に出てくる諺(本サイトで取り上げたもの):
      Il ne faut pas courir deux lièvres à la fois.
      Point d'argent, point de Suisse.
      Qui veut voyager loin ménage sa monture.
      Tel qui rit vendredi, dimanche pleurera.
  • ラ・フォンテーヌ(Jean de La Fontaine, 1621-1695)
    『寓話』(Fables 、1668 - 1693 年)。
    第 1 ~ 6 巻は 1668 年刊、第 7 ~ 11 巻は 1678 年刊、第 12 巻は 1693 年刊。
    イソップ物語(紀元前 6 世紀頃)をもとに、17 世紀にラ・フォンテーヌが書いた『寓話』は、フランスの諺の歴史上欠かせない作品で、諺の宝庫となっています。
    フランスの子供は、多くは幼稚園の頃から「蝉と蟻」を暗記し、小学校 1 年生頃から教科書でいくつもの話を教わります(17 世紀の文章なので、昔の言葉も含まれていますが、意味を教わりながら覚えるので、あまり問題はありません。動物が主人公なので、子供でも興味を持って読むことができます)。中学・高校でも小論文などの形で取り上げられるので、フランス人の基礎教養の一つとなっており、その影響力は計り知れません。
    なお、ラ・フォンテーヌには Contes (『コント』、邦題『ラ・フォンテーヌの小話』、『愛の神のいたずら』など)という作品群もあり、こちらは教訓めいた話とは打って変わって、艶っぽい男女間の浮かれた話ばかりが集められています。
    『寓話』は複数のサイトで原文が公開されています。
    jdlf.com で見る場合:左上の Livre I(第 1 巻)~ Livre XII(第 12 巻)をクリックすると、各巻に収められた話のタイトルが表示され、タイトルをクリックすると全文が表示されます。
    Wikisource で見る場合: ORDRE CHRONOLOGIQUE の右側の [Dérouler] (展開する)をクリックすると書物に収められた順、ORDRE ALPHABÉTIQUEの [Dérouler] をクリックするとアルファベット順でタイトルが表示され、タイトルをクリックすると全文が表示されます。
    『寓話』に由来する(または『寓話』で有名になった)諺(本サイトで取り上げたもの):
      Aide-toi, le ciel t'aidera.
      Il ne faut pas vendre la peau de l'ours avant de l'avoir tué.
      La méfiance est mère de la sûreté.
      La raison du plus fort est toujours la meilleure.
      On a souvent besoin d'un plus petit que soi.
      On ne peut contenter tout le monde et son père.
      Rien ne sert de courir, il faut partir à point.
      Tel est pris qui croyait prendre.
      tirer les marrons du feu
      Tous les chemins mènent à Rome.
      Un tiens vaut mieux que deux tu l'auras.
      Ventre affamé n'a point d'oreilles.

  18 世紀

  • Wikisource
    近年、フランスでは著作権の切れた本がインターネット上で数多く公開されていますが、 Wikisource (ウィキスルス)はその代表格です。フランスでは作者の死から 70 年が経過すると著作権が消滅するので、2012 年現在、1942 年以前に死亡した作者による古典的作品(文学に限らずさまざまな分野のもの)を閲覧することができます。ただし、誰でも参加できる不特定多数のボランティアが、実物の写真と OCR ソフトで読み込んだテキストとを照合しながら綴りを確認しているので、物によってはスペルミスも散見され、注意が必要です。
  • Google 書籍検索
    通常の Google 検索を行い、「もっと見る」のタブの「書籍」をクリックすると、書籍検索の結果が表示されます。 Google books 専用のページから検索しても同じ結果が得られます。
    「検索ツール」のタブの「期間指定なし」をクリックし、「期間を指定」を使うと、希望する期間に出版された本だけに絞り込むことができます(場合によっては違う結果がヒットすることもあるようです)。
    通常の検索と同様、検索したい表現の最初と最後にダブルクォーテーションマーク( "  " )をつければ、完全に同じ並びの表現だけがヒットします。
    17 世紀以前の本を探す場合は、昔の綴りに直して検索する必要があります。









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