ラニエ版画集
フランス17世紀の諺の版画
17 世紀中頃のジャック・ラニエの版画集(フランス国立図書館蔵)から、このホームページで扱った諺を描いた版画を取り上げます。
A laver la tête d'un âne on perd sa lessive.
出典: Gallica
版画の下に、昔の綴りで A lauer la teste d'un asne lon ny pert que sa lesiue. と書かれています。
ろばの尻の上には、小さな文字で Parlez a cet asne il vous fera des pets.(このロバに話しかけろ、そうすれば彼はあなたに屁をするだろう)と書かれています。
実際、きちんと屁も描き込まれています。
deux (trois) têtes dans un bonnet
現代では「縁なし帽」を使いますが、昔は「頭巾」が使われていました。
ここでは「一つの頭巾に多くの頭」(今の綴りに直すと plusieurs têtes en un chaperon)という表現が使われています。
出典: Gallica
Il faut battre le fer pendant qu'il est chaud.
出典: Gallica
図の右下に battre le fer il faut, pendant qu'il est bien chaud. と書かれています。
Il n'est si bon cheval qui ne bronche.
出典: Gallica
版画の下には、 Il n'est si bon chartier qui ne verse, ni si bon cheval qui ne bronche.(どんなに上手な荷馬車引きでも荷馬車をひっくり返すこともあるし、どんなに良い馬でも躓くこともある)と書かれています。
Il n'y a point de belles prisons ni de laides amours.
出典: Gallica
版画の下にはイタリック体で次のように書かれています。
- Chacun cherche son semblable, il n'est point de laides amours ni de belle prison.
誰しも自分に似た人を探す。美しい牢獄も、醜い恋も存在しない。
この「誰しも自分に似た人を探す」というのは、当時はよく使われていたらしく、ほぼ同時代の『ことわざのバレエ』でも取り上げられています。現在よく使われる「似た者は集まる」と同様、「類は友を呼ぶ」に近い意味だったと思われます。
その下には、小さな字で「メジスリー河岸、フォール・レヴェック(司教の城砦)にて」(現代の綴りに直すと Sur le quai de la Megisserie au Fort-l'Évêque)と書かれています(ちなみに、この版画の作者ラニエはこのあたりに居を構えていたようです)。
「司教の城砦」とは、もともとパリ司教の裁判権のもとに置かれていた牢獄で、19世紀初頭に取り壊され、今は残っていません。
版画の右上には、「彼はおりの中にいる」 (Il est en cage.) と書かれています。この右側の建物が、もしかしたら「司教の城砦」と呼ばれた牢獄なのかもしれません。
男の足元には、皮肉に次のように書き込まれています。
- 男は足元がおぼつかなく、女はわし鼻だ。美しき出会い。
また、頭上には小さな字で「殿方は奥方とよくお似合い」 (Monsieur vaut bien madame) と書かれており、こちらも皮肉たっぷりです。
これは「蓋が見つからないほど粗末な壺は存在しない」ということわざも連想させます。
La fortune vient en dormant.
出典: Gallica
眠っている男(おそらくアテネの将軍ティモテウス)が手に握っている網の中に、前髪だけ生えた幸運の女神(「好機は禿(は)げている」を参照)が、財産(城などの建物)をすくい取ってくれています。
船の縁に、小さな文字でこの諺が「Les biens luy vienne en dormant」(昔の綴り)と書かれています。
La poule ne doit pas chanter devant le coq.
次の版画では、「雌鶏が雄鶏の前で歌って」いる図が描かれています。
出典: Gallica
ほうきを振りかざす妻に怒られながら、夫が料理をしています。
版画の左上の隅の、妻が持つほうきの横には、妻についての説明書きのようにして La poulle qui chante devant le coc (「雄鶏の前で歌う雌鶏」、古い綴りを含む)と書かれています。
夫の顔の前には Il est trop bon. (彼はお人よしすぎる)と書かれています。
Oignez vilain, il vous poindra ; poignez vilain, il vous oindra.
出典: Gallica
この版画の作者(ラニエ)は、 oindre を「撫でる」という古い意味ではなく、「香油をかける」という意味に取っています。
On ne saurait faire boire un âne qui n'a pas soif.
出典: Gallica
版画の下に、昔の綴りで C'est folie de faire boire un Asne sil na soif. (ろばがのどが渇いていないなら、ろばを飲ませ〔ようとす〕るのは馬鹿げたことだ)と書かれています。
Point d'argent, point de Suisse.
出典: Gallica
金を払わないで立ち去ろうとした 2 人の乞食をスイス人の守衛が引きとめ、この諺を引き合いに出して「今すぐ金を払え」と言っている図であることが、この版画の左上の文章で説明されています。スイス人の顔の前あたりにも、小さな文字でこの諺が書き込まれています。
左上の 1 行目には、 A bon vin il ne faut point de bouchon.(うまい酒には看板はいらない)と書かれています。版画の上のほうには、花輪(リース)状のものが 3 つ描きこまれていますが、これは「酒あり」という印として居酒屋の軒先に飾られていた、わら束だと思われます。
版画の下には、「人は教会から出てくるようには、酒場からは出てこない」と書かれています(現在では使われない諺)。
2 人の乞食は、居酒屋で無銭飲食をして出てきたところを、スイス人に捕まったようです。
Qui aime bien châtie bien.
出典: Gallica
尻をたたいている女の頭の上に、小さな文字で Qui bien ayme bien chastie. (昔の綴り、昔の語順)と書き込まれています。
Qui trop embrasse mal étreint.
出典: Gallica
一度にたくさんの材木を運ぼうとすると不安定になり、かえって落としてしまい、作業がはかどりません。
倒れた一番下の板と、下から二番目の板の間に、この諺が現代とまったく同じ形(ただし古い綴り)で書きこまれています。
Rouge au soir, blanc au matin, c'est la journée du pèlerin.
出典: Gallica
版画の下にこの諺が記されており、歓待を受ける巡礼者が描かれています。
ちなみに、向かって右側の巡礼者の帽子に帆立貝の貝殻がついていますが、これはスペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼者であることを示しています。
フランス語で「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」は Saint-Jacques-de-Compostelle (直訳すると「コンポステルのサンジャック」)と言い、帆立貝は coquille Saint-Jacques (直訳すると「サンジャックの貝殻」)と言うので、両者が通じることから、この地に向かう巡礼者は帆立貝の貝殻を身につけるのが習わしでした。杖の先には、水筒代わりの瓢箪が結びつけられています。
版画の右上の隅には、Il a beau mentir qui vient de loin.(長旅した人のほら話) と書かれています。
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