フロリアン寓話
フロリアン『寓話』
18世紀後半のジャン=ピエール・クラリス・ド・フロリアン (Jean-Pierre Claris de Florian, 1755-1794) の『寓話』Fables (1792年刊) は、ラ・フォンテーヌの『寓話』の流れを汲む作品ですが、日本語訳は出ていないようなので、このページでは本ホームページで取り上げた諺に関連する「こおろぎ」と「牛飼いと森の番人」の二つを取り上げ、フランス語原文のあとに日本語訳をつけてみました。
なるべくもとのフランス語が理解しやすいよう、どちらかというと直訳に近づけて訳しました。それぞれ、話の最後に諺がでてきます(太字にしました)。
「こおろぎ」のフランス語原文
Le Grillon
Un pauvre petit grillon
Caché dans l'herbe fleurie
Regardait un papillon
Voltigeant dans la prairie.
L'insecte ailé brillait des plus vives couleurs ;
L'azur, le pourpre et l'or éclataient sur ses ailes ;
Jeune, beau, petit-maître, il court de fleur en fleur,
Prenant et quittant les plus belles.
« Ah ! disait le grillon, que son sort et le mien
Sont différents ! Dame nature
Pour lui fit tout, et pour moi rien.
Je n'ai point de talent, encore moins de figure ;
Nul ne prend garde à moi, l'on m'ignore ici-bas :
Autant vaudrait n'exister pas. »
Comme il parlait, dans la prairie
Arrive une troupe d'enfants ;
Aussitôt les voilà courants
Après ce papillon dont ils ont tous envie.
Chapeaux, mouchoirs, bonnets, servent à l'attraper.
L'insecte vainement cherche à leur échapper,
Il devient bientôt leur conquête.
L'un le saisit par l'aile, un autre par le corps ;
Un troisième survient et le prend par la tête.
Il ne fallait pas tant d'efforts
Pour déchirer la pauvre bête.
« Oh ! oh ! dit le grillon, je ne suis plus fâché ;
Il en coûte trop cher pour briller dans le monde.
Combien je vais aimer ma retraite profonde !
Pour vivre heureux, vivons caché. »
略注
14行目
「Autant vaudrait」は、 autant vaut + inf. (~するのも同じことだ、どうせなら~するほうがいい)という熟語表現をベースに、valoir の直説法現在3人称単数の vaut の代わりに、条件法現在3人称単数の vaudrait にしたもの。条件法を用いることで、「実際は違うかもしれないけれど、極端に言えば、もしこう言っていいのなら」という「非現実」または「語調緩和」(婉曲)のニュアンスが出ています。
29行目
フロリアンの原文では最後の「caché」に s がついていません。この話では、自分一人に言い聞かせるように、自分だけに言っているからだと思われます。
「こおろぎ」の日本語訳
哀れな小さなこおろぎは
花咲く草の中に隠れ、
草原でひらひらと舞う
蝶を眺めていた。
羽をもつ蝶は、とても鮮やかな色で光っていた。
羽は紺碧、緋色、金色で輝いていた。
めかし込んだ若くて美しい蝶は、花から花へと駆けまわり、
美しい花に近づいては、また離れる。
「ああ」と、こおろぎは言うのだった、「蝶の運命とぼくの運命は、
なんて異なるのだろう。自然の女神は
蝶のためにはすべてを叶え、ぼくのためには何もしてくれなかったのだ。
ぼくは才能はないし、ましてや容姿も悪い。
誰もぼくのことなど気に留めないし、ぼくがここにいることも知らない。
これじゃあ、存在しないのも同然だ」。
こおろぎがこのようにつぶやいていると、草原に
子供たちの一群がやってくる。
すぐに、みんな蝶を欲しがって
追いかけ始めた。
蝶をつかまえるために、縁のついた帽子や、縁なし帽、ハンカチが使われた。
蝶は逃げようとするが無駄に終わり、
まもなく、とらえられてしまう。
ある者は羽を、ある者は胴体をつかむ。
またある者が割り込んできて、頭をつかむ。
たいした力も入れていないのに、
哀れな蝶は引き裂かれてしまう。
「おやおや」と、ここおろぎは言う、「ああ、よかった。
世の中で目立つと、大きな代償を払うことになるんだな。
ぼくはひっそり隠れていることを、どんなに愛するだろう。
幸せに生きるためには、隠れて生きよう」。
「牛飼いと森の番人」のフランス語原文
Le vacher et le garde-chasse
Colin gardait un jour les vaches de son père ;
Colin n'avait pas de bergère,
Et s'ennuyait tout seul. Le garde sort du bois :
« Depuis l'aube, dit-il, je cours dans cette plaine
Après un vieux chevreuil que j'ai manqué deux fois
Et qui m'a mis tout hors d'haleine.
-- Il vient de passer par là-bas,
Lui répondit Colin : mais, si vous êtes las,
Reposez-vous, gardez mes vaches à ma place,
Et j'irai faire votre chasse ;
Je réponds du chevreuil. -- Ma foi, je le veux bien.
Tiens, voilà mon fusil, prends avec toi mon chien,
Va le tuer. » Colin s'apprête,
S'arme, appelle Sultan. Sultan, quoiqu'à regret,
Court avec lui vers la forêt.
Le chien bat les buissons ; il va, vient, sent, arrête,
Et voilà le chevreuil... Colin impatient
Tire aussitôt, manque la bête,
Et blesse le pauvre Sultan.
À la suite du chien qui crie,
Colin revient à la prairie.
Il trouve le garde ronflant ;
De vaches, point ; elles étaient volées.
Le malheureux Colin, s'arrachant les cheveux,
Parcourt en gémissant les monts et les vallées ;
Il ne voit rien. Le soir, sans vaches, tout honteux,
Colin retourne chez son père,
Et lui conte en tremblant l'affaire.
Celui-ci, saisissant un bâton de cormier,
Corrige son cher fils de ses folles idées,
Puis lui dit : « chacun son métier,
Les vaches seront bien gardées.»
注記:題名の Garde-Chasse は「密猟監視人」という意味ですが、わざと平易な言葉で「森の番人」と訳しました。
「牛飼いと森の番人」の日本語訳
ある日、コランは父の牝牛(めうし)の番をしていた。
コランには恋人がいなかったので、
一人で退屈していた。そこへ、森から番人が出てきて
言った、「わしは、この平原の中で、明け方から
老いた鹿を追いかけまわし、二度もしくじって、
まったく息が切れてしまったよ」。
「鹿なら、さっき通っていったよ」
とコランは答えた、「疲れているなら
休んでください。ぼくの代わりに牝牛の番をしてくれませんか。
その代わりに、ぼくが狩をしますから。
鹿なら、ぼくに任せてください」。「本当かい、ぜひそうしてくれ。
ほら、銃だ。この犬も一緒に連れていってくれ。
仕留めてくれよ」。コランは身支度をし、
銃を取り、スュルタンを呼ぶ。スュルタンは渋々ながら
コランと一緒に森へと駆けていく。
犬は茂みに分け入り、行ったり来たり、臭いをかぎ、立ち止まる。
おや、鹿だ。コランは焦って
急いで銃を放つが、獣には当たらず
可愛そうなスュルタンを負傷させてしまう。
鳴く犬のあとについて
コランは草原に戻ってくる。
見ると、番人はいびきをかいて寝ていた。
牝牛はというと... 一頭もいなかった。盗まれていたのだ。
不幸なコランは髪をかきむしり、
うめきながら野山を駆け回るが、
何ひとつ見つからない。夕方、牝牛を連れずに、まったく恥じ入りながら
コランは父のもとに戻る。
そして震えながら一部始終を話す。
父は、ななかまどの棒を手に取り、
ばかげた考えをした愛する息子を懲らしめる。
そして言った、「各人が自分の仕事をすれば、
きちんと牝牛の番ができるのだ」と。
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