「北鎌フランス語講座 - ことわざ編」では、フランス語の諺の文法や単語の意味、歴史的由来などを詳しく解説します。

天気のディクトン

天気のディクトン

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Après la pluie, le beau temps.

【逐語訳】 「雨のあとでは良い天気」

これは「ディクトン」(dicton)を超えて、「諺」(proverbe)として比喩的な意味で使われます。

【諺の意味】 苦しいことや悲しいことの後には、うれしいことや喜ばしいことがくるものだ。不幸のあとには幸福がやってくる。

【図版】 この諺を題材にした絵葉書があります。

【単語の意味と文法】 「Après」は前置詞で「(時間的に)~のあとで」。
「pluie」は女性名詞で「雨」。
「beau」は形容詞で「美しい」ですが、天気について言う場合は「良い」。
「temps」は男性名詞で「時間、時代、天気」。

なお、非人称の il を使った天候に関する表現で、

  Il fait beau.

は「晴れている」とも「天気がいい」とも訳せるので、この諺も「雨のあとでは晴れ」と訳すこともできます。

【他のバージョン】 動詞を補って、次のように言うこともあります。

  Après la pluie vient le beau temps.

「vient」は自動詞 venir (来る)の現在(3人称単数)です。ただ、この文は倒置になっています。倒置ではない普通の語順に戻すと、次のようになります。

  Le beau temps vient après la pluie. (良い天気は雨のあとに来る)

「Le beau temps」が主語(S)、「vient」が動詞(V)の第 1 文型で、「après la pluie」は状況補語です。
内容的には(論理的な順序としては)、最初に「la pluie (雨)」が降ってから「Le beau temps (良い天気)」がやって来るので、言葉の順序もそれに合わせて、「après la pluie」を文頭に持ってきたくなります。そうすると、

  Après la pluie le beau temps vient. (雨のあとに良い天気が来る)

となりますが、通常は文末に来るべき状況補語などの文の要素が文頭に来た場合、それに釣られるようにして動詞も前に来て、倒置になることが多いので、ここも倒置になっていると考えられます。

【由来】 13 世紀の詩人ロベール・ド・ブロワ『婦女の教育』 (Chastoiement des dames) の 583 行目に出てきます(原文は Méon 版(Internet Archive)などで閲覧可能、Le Roux de Lincy (1842), t. 1, p.75 で引用)。
1577 年のジャン・ル・ボンの諺集(Apres la pluye vient le beau-temps.)、1606 年のジャン・ニコ『フランス語宝典』の付録(原文は Gallica で閲覧可能)、1610 年のグルテルス『詞華選』(p. 186)などにも収録されています。

17 世紀のセヴィニェ夫人の書簡には次のような文が見えます(リトレで引用)。「こちらでは雨が降り続いており、『雨の後でよい天気が来る』と言う代わりに、私たちは『雨の後で雨が来る』などと言っています」。
アカデミーフランセーズ辞典』第 1 版(1694)にも記載されているので、その頃からよく知られた諺だったことがわかります。

文学作品の題名としては、児童文学のセギュール伯爵夫人が Après la pluie, le beau temps という小説(1871 年)を書いています。
また、アメリカの無声映画 Don't change your Husband (1919 年。邦題「夫を変へる勿れ」)はフランスでは Après la pluie, le beau temps として公開されました。

【日本の諺】 「苦あれば楽あり」、「苦は楽の種」

【ラテン語の諺】 Post nubila phoebus (雲のあとには太陽)

Rouge au soir, blanc au matin, c'est la journée du pèlerin.

【逐語訳】 「夕方には赤く、朝には白い、それは巡礼者の日だ」
(夕方に赤く、朝に白ければ、巡礼者日和だ)

【諺の意味】 夕焼けと朝霧は天気が良くなるしるし。
天気に関する諺です(観天望気)。
日本でも「夕焼けは晴れ」、「朝霧は晴れ」と言うようです。

【単語の意味と文法】 「rouge」は形容詞で「赤い」(または名詞で「赤」)。ここでは空の色を指し、夕焼けを意味します。
「au」は à と le の縮約形。前置詞 à は時を表す「~に」という意味です。
「soir」は男性名詞で「夕方」(または夜の早めの時間帯)。
「blanc」は形容詞で「白い」(または名詞で「白」)。ここでは空に霧がかかって白くなっている状態を指し、朝霧を意味します。「matin」は男性名詞で「朝」。

「rouge」と「blanc」は、名詞と取ることもできますが、むしろ形容詞と取ったほうがよいでしょう。この文の中では明確に主語になっているわけではなく、「夕方には赤く、朝には白い」という状態を述べていると取ったほうが自然な気がします。

「c'」は、漠然と前に出てきたものを指す言葉。ここでは「Rouge au soir, blanc au matin」全体を受けています。遊離構文の一種です。
「journée」は女性名詞で「日」。男性名詞の jour も「日」ですが、「journée」のほうが幅のある捉え方をするときに使われます(日が昇ってから日が沈んで一日の活動を終えるまでの間というイメージです)。

「pèlerin」は男性名詞で「巡礼者」。(発音:ペルラン)
ちなみに「巡礼」は「pèlerinage」と言います。(発音:ペルリナージュ)

フランスから見た巡礼先としては、イタリアのローマの他、フランスのルルド(Lourdes)とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ(フランス語では Saint-Jacques-de-Compostelle)が有名です。

【由来】 『マタイによる福音書』第 16 章 2~3 節には、「夕焼けは晴れ」、「朝焼けは雨」というような言葉が出てきますが、特にこれに限らず、どこの国にも似たような言い伝えがあるはずです。

フランス語の早い用例としては、15世紀の諺集に Rouge vespre et blanc matin est la joye au pelerin. と書かれています(Morawski, N°2224 による。「vespre」は soir の意味)。
1531年のシャルル・ド・ボヴェルの諺の本にも、ほぼ同じ Rouge vespre & brun matin, est le souhait du pelerin. という形で収録されています(HathiTrust で閲覧可能)。

【他のバージョン】 いくつかバージョンがあります。

1. 文頭に「空」を意味する「Ciel」をつけることもあります。

  • Ciel rouge au soir, blanc au matin, c'est la journée du pèlerin.
    (夕方における赤い空、朝における白い空、それは巡礼者の日だ)
    こうすると、「rouge (赤い)」と「blanc (白い)」は、ともに「Ciel (空)」にかかります。
    前置詞 à (縮約形 au に含まれる)は、「~に」のほかに、このように「~において」「~における」と訳すとぴったりくる場合もあります。
    なお、冠詞をつけて「Le ciel rouge...」ということもありますが、諺なので無冠詞にされることのほうが多いようです。

2. 「au」(à と le の縮約形)の à を省き、「le」だけにすることもあります。

3. 文頭に「Ciel」をつけ、「c'est」の代わりに「うっとりさせる、夢見心地にさせる、喜ばせる」という意味の他動詞 ravir を使うこともあります。

  • Ciel rouge le soir, blanc le matin ravit le pèlerin.
    (夕方における赤い空、朝における白い空は、巡礼者を喜ばせる)
    「ravit」は ravir (第 2 群規則動詞)の現在形(3人称単数)。
    「Ciel rouge le soir, blanc le matin」全体が大きな主語(S)になり、「ravit」が動詞(V)、「le pèlerin」が直接目的(OD)です。

【言葉遊び】 この最後のバージョンの「Ciel」を vin (ワイン)に置き換えると、次のようになります。

  • Vin rouge le soir, blanc le matin ravit le pèlerin.
    (夕方には赤ワイン、朝には白ワイン、それは巡礼者を夢見心地にさせる)

【図版】 17 世紀中頃の J. ラニエの版画にこの諺が描かれています。






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