絵葉書A-H
フランスの諺の絵葉書 1 (A~H)
諺を描いた絵葉書をアルファベット順にいくつか取り上げてみます。
À cœur vaillant rien d'impossible.
勇気を持って進めば、どんな困難でも乗り越えられる、という意味です。
この諺は、兵隊の士気を高めるためにも使われました。
次の絵葉書では、二人の兵士が支えている盾の下あたりにこの諺が書かれています。
兵士が着ているのは、第一次大戦の初期まで採用されていたフランス軍の軍服です。絵葉書の消印は1909年です。
À malin, malin et demi.
狐(きつね)は昔から「ずる賢い」というイメージがあります。
その一歩上を行くずる賢い方法によって、狐を文字通り「罠にはめている」図です。
- これは歯磨き粉やマウス・ウォッシュのメーカー、ボト(Botot)社の「クロモ」です。ちなみに、こうした「影絵」のことを ombre chinoise といいます。
横取りしたと思ったら、横取りされていた図です。
- 1950年代頃に著名な漫画家Rob-Vel (Robert Velter) が描いた絵葉書です。
Après la pluie, le beau temps.
二枚セットの絵葉書で、ことわざの前半(雨)は仲たがいをしている図、ことわざの後半(晴天)は仲直りをしている図で表されています。
喧嘩のあとで、仲直り。単純明快です。
この絵葉書はストーリーになっています。順に見ていくと、
- C'est la guerre 戦争だ
- En permission 休暇中
(permission は、家族に会うために戦線を離れることが許される一時休暇) - La meilleure tranchée 最高の塹壕(ざんごう)
(愛の営みを戦争に喩えているようです) - La Classe 37 37年兵
(「classe ~」は「~年の(同期の)兵隊」という意味。「~」の部分に20才になったときの西暦(下2桁)を入れます。逆算すると、赤ん坊は1917年生まれとなります)
ここから、第一次世界大戦中の出来事であることがわかります。 - Après la pluie, le beau temps. 雨のあとでは、良い天気。
(戦争を乗り越えて、平和な家庭が築かれる、と言いたいようです)
こうした絵葉書を見ると、「戦争はつらいけれど、あとで楽しいことが待っているから頑張ろう」という意味で、いわばプロバガンダとしてこの諺が利用されたことがわかります。
Après moi le déluge !
水洗トイレに流れる水を「大洪水」に見立てています。
あまり深い意味はありません。
Araignée du matin, chagrin ;
Araignée du midi, souci ;
Araignée du soir, espoir.
もとは「朝の蜘蛛は雨、昼の蜘蛛は嵐、夜の蜘蛛は晴れになるしるしである」という意味だったようですが、
「朝と昼に蜘蛛を見かけたらアンラッキー」
「夜に蜘蛛を見かけたらラッキー」
という縁起かつぎに使われます。
次の絵葉書では、下に英語とフランス語が併記されています。
- A spider in the evening...
Hope in everything - He'll come !
Araignée du soir... espoir - Il viendra !
〔英〕
夜の蜘蛛...
何事においても希望 - 彼は来るわ!
〔仏〕
夜の蜘蛛... 希望 - 彼は来るわ!
英語の「何事においても」は、本来なら余計なはずですが、フランス語で soir と espoir が韻を踏んでいるように、英語訳でも evening と韻を踏ませるために in everything (何事においても)を付け足したのだと思われます。
「きっと彼は来る」、いいことが起きる前兆だと捉えられています。
次の「クロモ」では、食卓で天井から蜘蛛がぶら下がっていますが、二人とも余裕の表情です。
下のほうに次のように書かれています。
- Araignée du soir ?
Grand espoir !
夜の蜘蛛?
大きな希望!
これを二人の会話と取るなら、
- 「おや、夜の蜘蛛だね?」
「縁起がいいわねえ!」
という感じです。
Bien mal acquis ne profite jamais.
「悪銭身につかず」という意味の諺です。
次のものは 6 コマ漫画になっており、左上→右上→左中... の順に見ていきます。小さな字なので拡大し、訳だけつけておきます。
〔左上〕
おや、きれいなお菓子をママが窓のところに置いているぞ、とトトは言いました。
きっと、おいしいだろうなあ!
〔右上〕
うん、でも、どうやって取ったらいいかな?
すると、トトは急いでブランコに乗り、
〔左中〕
力強くブランコをこいで、
〔右中〕
お菓子のところに行って、器用につかみ取りました。
〔左下〕
さあ、ご馳走だぞ。彼は舌なめずりをしました。
〔右下〕
そのとき、メドールがひとっ跳びして、「不正に獲得された財産は決してためにならない」ということを証明しました。
C'est au pied du mur qu'on voit le maçon.
この諺は、「壁の下部においてこそ、石工のことがわかる」→「人の能力は、仕事ぶりを見ることでわかる」という意味もありますが、 être au pied du mur (壁ぎわに追いつめられている→「後戻りできない、行動せざるをえない状況になる」)という熟語表現を踏まえ、「後戻りできなくなったときにこそ、石工のことがわかる」という意味で使われることもあるようです。
次の絵葉書では、倒木によって行く手がはばまれています。
女たちは、「さあ、お手並み拝見」「がんばってね」と言っているようです。
口先だけでなく、本当に力持ちかどうか、男の真価が問われています。
次の絵葉書では、ベットで妻が Viens-tu, chéri (あなた、こっちに来ない?)と言っています。
夫が本当に役に立つかどうか、「真価」が試されようとしています。
C'est dans les vieux pots qu'on fait les meilleures soupes.
この諺は、「若い女性よりも、むしろ年をとった女性のほうがよい」という意味で使われることがあります。
「熟女も魅力的」ということでしょうか。
なお、この諺は多少字句のばらつきがあり、この絵葉書では末尾が ...la bonne soupe. となっていますが、ほとんど意味は変わりません。
この絵葉書はRobert Allouin(ロベール・アルーアン)というイラストレーターによるCPSM。
Chassez le naturel, il revient au galop.
chasser は「追い払う」の他に、「狩をする」、「追いかける」という意味もあります。
次の絵葉書では、こうした意味をヒントに、狩の場面が描かれています。
絵だと、抽象的なものは描きにくいという事情もあり、ここでは「生まれつきのもの」が猪(いのしし)の形を取って描かれています。
つまり、この諺が次のように解釈されているといえます。
- Chassez le sanglier, il revient au galop.
猪を追いかけてみたまえ、それは駆け足で戻ってくる。
Chat échaudé craint l'eau froide.
chat には「猫」のほかに「女性性器」という意味があることを知らないと、十分にこの絵葉書の意味を理解することはできません。
この絵葉書では、わざと chat をこの意味に「曲解」し、ビデから熱湯が吹き出て熱がっている女性が描かれています。
下に proverbe plombier (配管工の諺)と書かれているのは、配管工事で水のパイプとお湯のパイプを間違って接続した結果だという意味のジョークでしょう。
脇からバケツに水を入れて差し出されていますが、「いらない」という合図をしています。
「水を恐れ」ているわけではないと思いますが...
deux (trois) têtes dans un bonnet
これは、北仏アミアンのノートルダム大聖堂の内陣(一般の信者向けの席とは区別された、主祭壇の左右の部分)の聖職者席 (stalle de chœur) の手すり (accoudoir) に彫られた彫刻を写した写真の絵葉書です。彫刻されたのは1508~1519年頃とされています。
ちなみに、聖職者席の椅子には、「ミゼリコルディア」と呼ばれる部分があり、ここにも「一つの縁なし帽に二つの頭」などの成句表現がよく彫刻されています。
- 「ミゼリコルディア」とは、聖職者用の木製の折りたたみ椅子の裏側(座っている時にふくらはぎに当たる部分)に、座面と直角に作られた小さな台のことで、聖職者が起立して座面をはね上げると上を向き、軽く腰を乗せて体を支えられるように工夫されています。老齢や病弱な聖職者が立ったままだと疲れるので、それを「憐れんで」作られたものというのが語源のようです(「ミゼリコルディア」は「慈悲、憐れみ」を意味するラテン語で、仏語では miséricorde ミゼリコルド)。
尻に敷かれる位置にあるため、聖人などの像ではなく、むしろ動物や怪物、あるいは成句表現などの世俗的・卑俗・滑稽なテーマが好んで彫刻されます。「一つの縁なし帽に二つの頭」も、色々な教会のミゼリコルディアの彫刻に好んで取り上げられる題材の一つです。
En avril, ne te découvre pas d'un fil ; en mai fais ce qu'il te plaît.
次の絵葉書は、メルセデス・ベンツが販促用に作ったもので、単語の一部が2台の車の写真に置き換えられています。
この2台は実は同じ車で、ルーフ(屋根)を電動で開閉することができる「メルセデス・ベンツSLK」というモデルです(上が閉じた状態、下が開けた状態)。
4月まではルーフを閉じた状態で走り、5月になって陽気が良くなったらルーフを下ろしてオープンカーとしてドライブしてください、という意味です。
なかなか洒落ています。
faire d'une pierre deux coups
「一つの石で二つの打つことをする」(一石二打)というのが直訳です。
この「クロモ」では、上の諺をもじって次のように書かれています。
- Faire d'une prière deux sous
1 つの懇願で 2 スーを得る
「pierre」を発音の似た「prière」に置き換え、「coups」を「sous」に置き換えた言葉遊びです。
ここでは「faire」は「する」というよりも、faire A de B で「BからAを作る」という使い方がされており(直接他動詞(2)のタイプで、順番が入れ替わって faire de B A となった形)、「1 つの懇願から 2 スーを作る」というのが直訳。「スー」は昔の貨幣単位で、数円~数十円に相当し、「微々たるお金」の代名詞。
男の子が体の前に掛けた札には、小さな字で次のように書かれています。
- AYEZ PITIÉ D'UN PAUVRE AVEUGLE PAR ACCIDENT
事故による貧しい盲目を哀れみください
物乞いをしてお金を受け取っている図です。昔はこうした風景が多く見られたようです。
Faute avouée est à moitié pardonnée.
「奥様、大切なお皿を割ってしまって、申しわけありません」と謝っているようです。
正直に謝られたので、「あら、いいのよ」と許しているようです。
右下に、 Faute avouée est à demi pardonnée. と書かれています。
(左上に書かれているのは、この「クロモ」を作成したチョコレートメーカーの名前です)。
Faute de grives, on mange des merles.
まず、2 種類の鳥がどのような鳥か見ておきます。
「grive」(つぐみ)は、茶褐色と白が混じった色をしています。
- 「grive」(つぐみ)といっても、実は色々種類がありますが、この写真の鳥は正確には grive litorne(野原つぐみ)と呼ばれる種類です。
ちなみに、つぐみを使った料理は、こんな感じ(Google画像検索)です。
「merle noir」(黒歌鳥、くろうたどり)は、嘴を除いて真っ黒です。
- 上の二枚は、いずれもベルギーの「鳥シリーズ」の普通切手の発売にあわせ、切手愛好家向けにお揃いの絵葉書に貼って、未使用の状態で郵便局で記念スタンプを押したものです。
以下の絵葉書では、諺の前半だけが書かれ、あとは中断符(...)になっています。
狩で獲物が取れなかったので、しかたなく猟銃に糸をつけて釣りをしています。
- 一般に、フランス語の la chasse (狩、狩猟)と la pêche (釣り、漁業)は一対をなす概念と考えられているようです。
本当は獣の肉が食べたかったのかもしれませんが、「得られなければ魚で満足するしかない」ということのようです。
次の絵葉書は、第一次大戦頃(1916年)のもので、「Dans le bled」(奥地にて)と書かれています。
「黒人女性」が「黒歌鳥(くろうたどり)」に喩えられ、「白人の女がいなければ黒人の女で満足するしかない」という意味のようです。
現代なら、人種差別に当たるので、このような絵葉書が作られるはずはありません。
- 余談ですが、ヨーロッパで今日のように人種差別がタブー視・犯罪視されるようになったのは、奴隷を含む黒人差別が問題視されたからというよりも、むしろ第二次世界大戦中のナチスの人種主義に基づくユダヤ人迫害に対する反省のほうが決定的な要因となったと思われます。
Froides mains, chaudes amours.
なかなか洒落ています。状況設定が卓抜です。
- Fred Spurcin は第一次世界大戦頃に活躍したイギリスのイラストレーターのようです。
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