「北鎌フランス語講座 - ことわざ編」では、フランス語の諺の文法や単語の意味、歴史的由来などを詳しく解説します。

聖人暦について

聖人暦について

フランスには「聖~の日」という表現を含むことわざ(ディクトン)が多数あります。
そこで、このページでは聖人の祝日(聖人暦)について記載しておきます。

  ⇒ 聖人の祝日について
  ⇒ 新旧聖人暦の比較
  ⇒ フランス語での聖人の書き方についての注意

聖人の祝日について

キリスト教では 365 日、毎日「この日は聖~の日」と決まっています。
たとえば、

  • 6 月 8 日は「聖メダールの日」
  • 11 月 25 日は「聖カトリーヌの日」

ただし、聖人は 365 人以上いるので、2 人以上の聖人が 1 日にかぶさる場合もあります。

フランスでは昔から壁掛け型の A4 横サイズの暦が郵便局で作られており、そこには毎日、聖誰々の日であるのかが記載されています。

たまたま手元に約 50 年前(1967年)の昔の暦と、つい最近(2014年)の暦があるので、以下に掲載しておきます。

字が小さいので、のちほど拡大します。

1967年の暦

1967年の暦

Almanch は「暦」のこと。「アルマナ」と発音します。

P.T.T. は Postes, Télégraphes et Téléphones 郵便・電報・電話(公社)の略で、要するに郵便局のこと。現在では電報はほとんど使われず、電話事業は切り離されて別会社になっており、郵便局は La Poste と呼ばれています。

昔の暦は表面だけに 12 か月が記載されていますが、最近の暦は、裏表 6 か月ごとになっています。

2014年の暦(1~6月、表面)

2014年前半の暦

2014年の暦(7~12月、裏面)

2014年後半の暦

同じ年の暦でも、地域ごとに違う写真を使った異なるバージョンが存在します。

写真では見えませんが、壁に掛けられるよう、上部中央には古い暦では紐がついており、新しい暦では山形の針金のフックがついています。

2014 年の暦の場合、上の 2 つの写真は光沢のある厚紙となっており、これを表紙・裏表紙として、実はこの内側にぺらぺらの薄い紙が 20 ページほど挟まった小冊子となっています。
内側の紙には、記入式のスケジュール表や、それぞれの地方の地図、通りの名の一覧、あるいは「油の染みを取る方法」「花束を長持ちさせる方法」などの「生活の知恵」、日の出・日の入りの時刻などが記載されています。残念ながら、ことわざは記載されていません。

  • しかし、日本でも日めくりカレンダーの余白には、ことわざや格言が書かれていることが多く、またベンジャミン・フランクリンの「富に至る道」がもとは『貧しいリチャードの暦』に掲載されたことわざを集めたものであったことを考えてみると、暦(カレンダー)とことわざというのは本来的に親和性が強いのではないかという気もします。



新旧聖人暦の比較

上の 2 枚の暦をよく見比べると、聖人の名がだいぶ異なることに気づきます。

そこで、以下で毎月ごとに拡大して比較してみます。

1月

1967年1月の暦

1967年の暦

 

2014年1月の暦

2014年の暦

キリスト教関連の祝日などがある場合は、スペースの関係からそちらが優先され、聖人の名は記載されません。

  • なお、キリスト教関連の祝日は、主に復活祭を中心に(逆算して)数えて決められます(⇒ キリスト教の祝日カレンダーを参照)。復活祭は月の満ち欠けに左右される(太陰暦で決まる)ので、日付は毎年異なります。

左の 1967 年の暦の場合、男の聖人の前には s(saint の略)、女の聖人の前には se(sainte の略)と書かれているので、それを目印に左右の暦を比較すると、大きく異なっているのがわかります。
たとえば、

  • 1/4 左は Angèle なのに右は Odilon
  • 1/9 左は Marcellin なのに右は Alix
  • 1/11 左は Hortense なのに右は Paulin
  • 1/14 左は Hilaire なのに右は Nina
    その他多数

全体的に、古い暦には聞きなれない名前が多く、新しい暦では現代的な名前が多いことに気づきます。
伝統的には、子供が生まれると、生まれた日の聖人の名をとって子供に名前をつけることも行われており、日本でいえば「○○衛門」のような名の聖人だと、名前をつけにくいという実生活上の事情もあるのかもしれません。

ちなみに、暦なので、月の満ち欠けが顔文字で表され、欄外には Les jours aug. [= augmentent] de 1 h 6.( [1月には] 日が 1 時間 6 分長くなる)(1967年の場合)などと書かれています。
また、右の暦には占星術のマークもついています(毎月20日前後の星座が切り替わるあたり)。

その他、スペースが狭いので色々と略号が使われており、たとえば L M M J... は月火水木... を意味します(「文法編」の「曜日と月」のページを参照)。



2月

1967年2月の暦

1967年の暦

 

2014年2月の暦

2014年の暦

〔2月14日〕
聖バレンタイン saint Valentin の日。「バレンタインデー」として日本でも有名です。



3月

1967年3月の暦

1967年の暦

 

2014年3月の暦

2014年の暦

〔3月1日〕
⇒ 聖オーバンの日に雨が降ると、水がワインよりも高くなる



4月

1967年4月の暦

1967年の暦

 

2014年4月の暦

2014年の暦

〔4月23日、25日〕
⇒ 聖ジョルジュの日には大麦を蒔け。聖マルクの日では遅すぎる
(ジョルジュやマルクといった有名な聖人の場合は、時代が変わっても他の聖人に差し替えられることはありません。)



5月

1967年5月の暦

1967年の暦

 

2014年5月の暦

2014年の暦

〔5月11、12、13日〕
新しい暦では5月11~13日のところに3日連続で「S.G.」と書かれていますが、これは「氷の聖人たち」saints de glace の略。暦では、たまたま同じ日にあたる他の聖人の名が優先され、「氷の聖人たち」の具体名は省略されていますが、
  5月11日は聖マメール saint Mamert
  5月12日は聖パンクラス saint Pancrace
  5月13日は聖セルヴェ saint Servais
の日とされています(古い暦で聖セルヴェのみ記載)。「4月には糸一本脱ぐな、5月には好きなようにしろ」ということわざとは裏腹に、この頃には「寒の戻り」というのか、初夏のはずなのに冷え込むことが多く、この3日間は霜が降りて農作物に被害が出ないよう、農民たちはそれぞれの日の聖人に祈ったことから、この三人が霜をつかさどる聖人とされ、「氷の聖人たち」と呼ばれるようになったようです。三人が小さく「S.G.」となっているのは少し寂しい気もしますが、逆にいえば「S.G.」だけでわかるのは有名な証拠かもしれません。
この三人については、
  Saint Servais, saint Pancrace et saint Mamert
  font à trois un petit hiver.
 (聖セルヴェ、聖パンクラスと聖マメールは
  三人で小さな冬を作る)
ということわざが比較的有名です(この表現では13日、12日、11日の順で聖人が並んでいますが、これは Mamert と hiver で韻を踏ませ、語調のよさを優先した結果だと思われます)。「小さな冬を作る」というのは要するに「冬のような寒さになる」という意味ですが、しかし「聖... の日には冬のような寒さになる」ではなく「聖... は小さな冬を作る」と表現されているのは、単なる擬人化ではありません。一般に、こうした季節のことわざでは、聖人たちは非常にリアルな、なまなましい、身近なものとして描写されることがよくあり(※)、こうしたことわざを生み出した昔の民衆は、聖人たちが実際に天に「実在」し、目に見えない力を働かせていると考えていたはずです。ここで取り上げたことわざも、そうした民衆の素朴な想像力(信仰)に基づく表現だといえます。

なお、初夏なのに寒いというのは、初冬なのに暖かい「サン・マルタンの夏」(11月11日、下記)と好対照をなします。

〔5月の第2日曜日〕
5月の第2日曜日は「ジャンヌ・ダルク祭」Fêtes de Jeanne d'Arc で、仮装行列などが行われます(新しい暦には「F.J.D'ARC」と記載)。ただし、古い暦ではたまたまこの年の第2日曜が聖霊降臨祭 Pentecôte(⇒ キリスト教の祝日カレンダーを参照)と重なったので、そちらが記載されています。

  • なお、宗教的にはジャンヌ・ダルクが処刑された5月30日が聖ジャンヌ・ダルクの祝日とされており、教会ではこの日に祝われるようです(ただし5月30日は聖フェルディナンの日でもあるので、暦にはそちらが記載されています)。

〔5月の最終日曜日〕
日本では5月の第2日曜日が「母の日」ですが、フランスでは最終日曜日が「母の日」Fête des Mères と決められており、新旧どちらの暦でも、曜日欄の最後の「D」(日曜)のところを見ると記載されています。



6月

1967年6月の暦

1967年の暦

 

2014年6月の暦

2014年の暦

〔6月8日〕
⇒ 聖メダールの日に雨が降ると、その後40日間雨が降る

〔6月の第3日曜日〕
「父の日」Fête des pères は日本もフランスも6月の第3日曜日です。

〔6月24日〕
新しい暦には「洗礼者ヨハネ」Jean-Baptiste、古い暦には「洗礼者聖ヨハネの誕生」Nativité de saint Jean-Baptiste が略して記載されています。荒野でイエス・キリストに洗礼を授けた「洗礼者ヨハネ」の誕生を記念する日です。
「ヨハネ」というと、聖書ではもう一人、イエスの弟子で新約聖書の『ヨハネによる福音書』を記した「使徒ヨハネ」(福音記者ヨハネ)が有名ですが、こちらは12月27日が祝日。
洗礼者ヨハネの日(6月24日)は夏至(6月22日頃)に近く、使徒ヨハネの日(12月27日)は冬至(12月22日頃)に近いので、それぞれ同一視(混同)されることもあったらしく、
  Jean et Jean partagent l'an.
 (ヨハネとヨハネが一年を分けあう)
ということわざも存在します。要するに「夏至と冬至をさかい目として一年は二つにわけられる」というような意味ですが、この表現でも、主語になった聖人たちは非常にリアルな姿をとってイメージされており、「分けあう」partager という言葉からは - あたかも洗礼者ヨハネと使徒ヨハネが大きなケーキか何かを半分こにして二人で「分けあう」ようにして - 一年を分けあっているようなイメージさえ浮かぶ気がします。

〔6月29日〕
⇒ ペテロ(ピエール)の服を脱がせてパウロ(ポール)に着せる



7月

1967年7月の暦

1967年の暦

 

2014年7月の暦

2014年の暦

〔7月14日〕
フランス革命の勃発(バスチーユ牢獄襲撃)を記念する日。フランス語で「7月14日」を意味する「le 14 juillet」(ル・キャトルズ・ジュイエ)という言葉は、単なる日付を超えて「革命記念日」という特別な意味を担っています。新旧どちらの暦にも Fête nationale(逐語訳「国の祭日」)を意味する言葉が記載されています。この日はパレードが行われ、国歌「ラ・マルセイエーズ」が演奏されます。



8月

1967年8月の暦

1967年の暦

 

2014年8月の暦

2014年の暦




9月

1967年9月の暦

1967年の暦

 

2014年9月の暦

2014年の暦

〔9月17日〕
⇒ 今日は聖ランベールの日。席を離れる者は席を失う
(新しい暦ではランベールではなくルノーになっているので、古い暦を見る必要があります)

〔9月29日〕
聖ミカエル(フランス語読みでは「ミシェル」)の日。古い暦では saint Michel archange(大天使聖ミカエル)を意味する言葉が記載されています。

⇒ 聖ミシェルの日に燕がいたら、冬はクリスマスにならないとやって来ない



10月

1967年10月の暦

1967年の暦

 

2014年10月の暦

2014年の暦




11月

1967年11月の暦

1967年の暦

 

2014年11月の暦

2014年の暦


〔11月11日〕
11月11日のところを見ると、昔の暦には Victoire 1918(1918年の勝利)、最近の暦には ARMIST. (= Armistice) 1918(1918年の休戦)と書かれています。第一次世界大戦(1914~1918)の戦勝記念日(休戦記念日)です。
これがフランスの祝日になっているので、スペースの関係から暦には聖人の名は記載されていませんが、実は11月11日は saint Martin 聖マルタン(聖マルティヌス)の日ということになっており、
  l'été de la Saint-Martin
  (サン・マルタンの夏)
という表現が有名です。
「サン・マルタンの夏」は、日本の「小春日和」やアメリカの Indian summer (インディアン・サマー)に相当し、初冬(11月)のぽかぽかと暖かい陽気を指す言葉として使われます。

  • 聖マルタンはキリスト教をフランスに広めるうえで多大な功績を残したトゥール Tours の司教。聖マルタンが死んだのは11月8日のことで、伝説によると、修道士たちが遺骸を運び出して川で運んだ10日と11日は時ならぬ暖かさとなり、薔薇が咲いて緑が戻ったそうですが、同じ陽気が毎年繰り返されたので「サン・マルタンの夏」と呼ばれるようになったということです(Bidault de l'Isle (1952), t.2, p.140 ; ビドー・ド・リール (1996), p.573 による)。

なお、英語をフランス語に逐語訳した l'été des Indiens(インディアンたちの夏)という表現も市民権を得ています。
ちなみに、イギリスではフランス流に St. Martin's summer(セント・マーティンの夏)というそうです。



12月

1967年12月の暦

1967年の暦

 

2014年12月の暦

2014年の暦

〔12月13日〕
⇒ 聖ルシアの日には、蚤が跳ぶ分だけ日が長くなる

〔12月25日〕
⇒ クリスマスはバルコニーで、復活祭は暖炉で

〔12月27日〕
使徒ヨハネ(福音記者ヨハネ)の日。古い暦には saint Jean l'évangéliste(福音記者ヨハネ)を略して「s Jean Év.」と書かれています(6月24日の洗礼者ヨハネの日と対をなします)。



フランス語での聖人の書き方についての注意

フランス語で「聖~」または「聖~の日」と書く場合、正しい綴り方には以下のような細かい規則があります。

1) 日付の別名ではなく、人名として「聖~」という場合は、小文字の saint(e) にして、ハイフンは入れない。例:

  • saint Médard (聖メダール)
  • sainte Catherine (聖カトリーヌ)

なお、当然ながら聖人にも男女の区別があります(たとえば、聖メダールは男、聖カトリーヌは女)。女の聖人(つまり聖女)の場合は e をつけて sainte とします。

2) 聖人の名によって日付を表す場合は、定冠詞の女性形 la をつけ、大文字の Saint(e) にし、ハイフンを入れる。

なぜ女性形の la かというと、聖人の名の前に「fête de(の祝日)」という言葉が省略されており、「fête(祝日)」が女性名詞だからです。そのため、男性の聖人の前でも la をつけます。例:

  • la Saint-Médard (聖メダールの日)
      = la fête de saint Médard
  • la Sainte-Catherine (聖カトリーヌの日)
      = la fête de sainte Catherine

  • 本来は「聖メダールの祝日」、「聖カトリーヌの祝日」と訳すべきかもしれませんが、もともと「fête」という言葉が省略されていることに加え、日本語で発音した場合に「~の祝日」というと長くて言いにくいので、本ホームページでは「~の日」としています。

3) 聖人の名をそのまま地名にした場合は、大文字の Saint(e) でハイフンを入れる。

4) saint Marc の発音は例外的。現代のフランス語では、

  • saint Marc (新約聖書の福音書で有名な「聖マルコ」)は「サンマルク」と発音する(最後の c は発音する)。
  • place Saint-Marc (イタリアのヴェネツィアにある聖マルコ広場)は「プラース・サンマール」と発音する(最後の c は発音しない)。

このようにばらつきがあるのは、歴史的なある時期に、「語末の子音字は発音しない」という規則が確立されたのち、「1音節の語については、やはり語末の子音でも発音する場合もある」というように変化したことが原因だと考えられます。








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